第11話 あの~、ひっつきすぎじゃ……
「あの~、ひっつきすぎじゃ……」
「この位置取りが定番ですから」
「うん、落ちつくな!」
いやいや、改めて見ると紺のブレザーに短めのタイトスカート。タイトスカート? いやこれ、学生服っていうより、ビジネススーツ? ワイシャツの前を大きく開けて、襟長けが高い。
二人より背の高い俺は胸元が覗き込める位置にいる。それにリボンじゃなくてスカーフ? ビジネススーツと云うよりキャビンアテンダント?
顔とスタイルが良いだけに、目のやり場にも困ってしまう。
そんな俺の戸惑いも何のその。彼女たちは朝からかしましい。
「それにしても、ザギリと同じ高校に行けるなんてね」
「まったく、これで学園生活も少しは静かになるだろうな」
「静かになるって……、例のあれですか?」
「そうなの。どうしても善霊と悪霊が私たちの周りに集まって来て……。特にわたしと夜充に挟まれたところで争いが起こるのよね」
「ああっ、ほんとに覚醒したのが春休み中でよかったよ。引っ越ししたから、家にも学校にも迷惑かけないで」
いや、俺の前の住人には迷惑かけましたよね。そこはスルーなの?
それにしても周りに学生が増えて来た。
制服が一緒なので、この人たちは一条学園の生徒なんだろうな? 少し奇抜な制服と相まって奇麗な人が多いと感じる。
でも、そんな中でも、ミキとヤミは群を抜いている。
俺に向けられる嫉妬と敵意の視線が何よりの証拠だ。そんな視線に気が付いたのかヤミが俺の耳元に囁きかける。美少女主人公っていうのはこういう視線に鈍感だったはずだけど……。
「ザギリ、あんたの恰好、注目を集めているわよ。ダセエよな、高校生にもなって中二病なんて」
「ヤミ、人の性癖を非難するのはやめなさい」
いや、中二病は性癖じゃないからね。というか、なんでこの格好しているか知ってるよね。しろって言ったのはそっちだし。
現実はやっぱり、美少女っていうのは自覚がないものなの?
そんな風にいじられているうちに一条学園の校門についた。
校門から続く道の両側には桜の木が咲き誇り、なんと云うか歴史を感じる雰囲気のある木造の校舎がその先にある。道行く生徒の顔も自信に満ち溢れている。
俺は今日からここに通うのか。今までの中学とは違い、自分自身が生まれ変わったようで感慨深い。
「どうしたんですか? なんか雰囲気が変わって……、自分に自信が持てました?」
「いや、エリート校って、その……、懐の深さを感じますよね。誰だろうと力のあるものは受け入れるっていうか……」
「なに言ってんだ。どうせこいつらみんな、あたしの下僕になるんだぜ。ザギリ、お前もだけどな」
「わたしは一人でもやれますけどね。正義とは孤独なものです。まあ、ザギリさんだけは手下にしてあげますけど」
「あ”-っ!!」「ん”-っ!!」
なにそこで睨み合ってるんですか? あんたらの用途は全く正反対のベクトルでしょうが。そして、俺はどちらにも全く役に立ちません。境界っていうのはまだピンとこないけど、小市民根性は体に染みついてますから……。
「ほら、あそこ、生徒が群がってますよ。掲示板のようですね」
「クラスが張り出されているんですよ」
「クラス分けですか?」
「わたしたちは、経営戦略クラスでしょうけど」
「経営戦略クラス?」
「あん、ザギリは要項を読んでないのか? あたしたちの経営戦略クラス以外にそれぞれの能力に応じて企画クラスとか技術クラスとかに分かれているんだよ。それで内進組は、今までの成績が考慮され進学クラスが高学年ぐらいでだいたい決まる」
「なるほど、小さい頃から振るいに掛けられ、企画とか技術とか企業が必要とする能力別にクラス別になるんですね」
「そういうことです。わたしたちのクラスは経営でもっとも大事な資質がある人しか入れないんです」
「うーん? なんだろう? 経営に一番必要な物って?」
「わかりますか? ザギリさん」
「何だろう? 資本力。技術力。企画力?」
「バカかよ。一番必要なものはここ」
そう言って、夜充は胸を指差した。そこで胸をガン見していいんですか?
胸の大きさ?じゃないよな。経営者は男の人もいるから……。
「心(しん)の強さ、折れない心とか?」
「なにそれ? ジャ〇プの読みすぎ。実は決断力なんですよ。AIがどんなに進んでも、最後に決断するのは人間(・・)ですから」
ミキは人間を強調したけど……。古今東西、一貫した存在って云うのは、まあ、ブレないってことでは神だな。この二人将来、経営の神様って言われるんじゃないか?
まあ、俺には全然、縁の無いことだけどな。
「さて、編入組のザギリはどの組みかな?」
ヤミがいきなり俺の手を取って、掲示板のところに引っ張っていく。
その後をミキもしっかりついてくるから、掲示板の人だかりが二つに分かれる。
この二人、容姿からして目立つんだよな。周りの生徒からも一目置かれているようだし。
掲示板の前に立った俺は、クラスの名簿から自分の名前を探し出す。
俺の実力から言って、庶務?辺りか? しかし、庶務には名前がない。電算、営業、人事……。なんで俺の名前がないんだよ。俺本当にこの学校に受かったんだよな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます