第8話 ヤミ、大丈夫ですか?

「ヤミ、大丈夫ですか?」

「あん、ミキ! 大丈夫じゃねえよ。神の力の半分は持っていかれた」

 そう言って、手の甲をミキに見せた。

 手の甲にある紋章は薄く消えそうになっていた。

「あらあら、今なら私の完全勝利ですね」

「ミキ、ぬかしてるんじゃねえ! てめえだってもう一度波紋領域を展開すりゃあ、肉体が分解して、この世とおさらばじゃねえか!」

「まったく、その通りですよね。 で、そこに転がっているザギリさんはどうします?」

「この世なら仲良くできないかと思ったが、やはり、危険な男だな。まさか物理的に素っ裸にされちゃうとは……。神のことは話すべきじゃなかったか?」

「さっきの一撃、いや2発で、記憶喪失になっていたりして……。それに、わたしたちと同じように何時かのタイミングで勝手に記憶が蘇るかもしれませんし」

「もうどうでもいいよ。とにかく疲れた。もう風呂に入って寝る。まったく、神の力を取り戻すのにどれだけの眷属を贄(イケニエ)にしなければならないのか?」

「あら、眷属から闇の力を献上させるのですか? しばらくは静かになりますね」

「ああっ、自分の回復が最優先だからな。それより、ミキ、そっちの足持て!」

「えーっと、なにをするんですか?」

「この部屋にこいつを置いとく訳にもいかんだろ? 部屋の前に放り投げておく」

「なるほど、よっこしよっと!」

「なんだよ、その掛け声。若いくせに」

 座り込んでいたミキとヤミは、椅子やテーブルを支えに立ち上がったが、膝がガクガク震えて、立っているのも苦しそうだ。

 そして二人はフラフラしながら、ザギリの足を持って、引きずりながら部屋を出ていった。


 そして、ザギリの部屋の前まで、やってくると、そこにザギリを放り投げ、それぞれの部屋に帰っていく。

「おやすみ」

「はい、おやすみなさい」

 部屋に入る前にお互いに声を掛け、扉が閉じられる。そして、廊下にはザギリが伸びていた。


******ミキ視点********


 鉛のように重たい体を熱いシャワーでなんとか覚醒させ、ベッドに倒れ込むように横たえた。

 明日は入学式です。今日はもうこのまま、眠ってしまいましょう。

 まったく、こんなところで昔の仇敵に合うなんて……。それにしても、ザギリさん、軟弱になっていましたね。昔のザギリさんはもっと凛として恰好良かったんですけど……。

 オッドアイになってしまったからですかね。自分の容姿にビクビクして……。

 無白光だけのわたしを虹色に染めてほしかったのに……。でも、触れることさえ出来なかった。でも、今度はザギリが瞳を隠してさえいてくれれば……。それも可能かな。

だけど、あの虹彩がザギリの恰好良い所だし。せめて前髪だけは切ってもらおう。

 そうだよね。裸を見られたし、そのことで脅して、責任を取ってもらって……。

 わたし好みに色に染めて、いいえ、染まるのはわたしかな。

 でも、なんで物質で出来た服が半透明に見えたのでしょう? 普通は原子の振動によって発生するオーラが物質の周りに見えるはずなんですが……。

 うーん。分かりません? 対策としてはやっぱり眼帯をしてもらうしかありませんね。


 この世に生まれて15年と1か月。そろそろ、人間の体に慣れないと……。いえ、人間に生まれ変わって、人間として生活してきたはずなんですけど、光の神の記憶が蘇ってしまうと……。もっとも、双子の妹に闇の神、ヤミが居て頻繁に関われば、どうしても神の記憶と力が人間の時の記憶を上回っちゃいますよね。

 ザガリさんが人っぽくて、イマイチ垢抜けないのは、周りに神が居なかったからですね。

 わたしはヤミが居たおかげで、神の記憶や力が鮮明に蘇えってきましたしね。もし、ひとりでこの問題を抱え込んでいたら、断片的な記憶で自分を自分で頭のおかしい人認定していました。


 もっとも、光の神の記憶が蘇ったのはたった一か月前だったかな。それからは、神への供物ともいえる信仰を得るためとはいえ、なんか恒例イベントみたいに毎日毎日、ヤミと争っていたんだけどもう疲れました。

 おかげで、神の力を随分使いこなせるようにはなったんだけど……。

 だって神界では、ヤミとの直接対決って、ザギリさんが居たため、実際には一度もなかったから……。

 ザギリさんがいれば、また前のように、夜充と争わないで楽しく過ごせるかな……。


 そんなことを考えながら眠りに就いたミキは、ひさしぶりに懐かしい夢をみた。

 その夢は人として小さい頃、ヤミといっしょに雪だるまを作る夢だった。


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