第7話 だったら、その物質を構成している微小のひも

 だったら、その物質を構成している微小のひもをどうやって11次元以上の高次元に振動させればいいんだ? 

「じゃあ、充輝さんと夜充さんはどうやってひもを高次元に振動させるんですか?」

「ミキとヤミでいいって」

「そう言わないと殴るぞ!仲間だろ? だから教えてやるが、魔法と同じだぞ。強くイメージするんだ!! ひもが高次元に振動するところを!!」

「ヤミさん。いやいや、魔法なんて使えないから!! 例え使えたとしても、11次元の振動なんて絶対に想像できないから……。そのひも、どんだけウニョウニョしているんだよ?」

「ヤミ、嘘を教えないの。私たちは魔法使いじゃないでしょ」

「ごめんミキ、だって、今、魔法って巷じゃ流行りじゃない。ザギリだって少し信じてたし」

「はあっ、嘘だったの? 一瞬、信じたけど……。誰も見たことがない高次元のひもの動きを一生懸命、イメージしようとしたんだけど……」

「ははっ、それは神のみぞ知るですよ。だから神の目を使うんですよ。」

「私たちの目は特殊なんです。手の甲の紋章(エンブレム)を通してみると、目に映るものすべてが高次元のエネルギー体に見えます。後は音という振動を加えれば高次元世界が具現化するんですよ」

 充輝はそう言ってくれたが、夜充がチャチャを入れて来た。

「でも、ザギリは片目だけしか神の目を持ってない半端者だからな……、波紋領域はムリじゃないか!」

「夜充さん。そんな言い方……。でも、取り敢えずやってみます」

 俺は左手を右目の前に手を広げてかざしてみる。俺の瞳に紋章が映し出される。

 いや、このかっこ、凄く恥ずかしいですけど……。

 そんな考えが頭の中からぶっ飛ぶぐらい、凄い光景が目の前に広がる。

「どうだ? どんなふうにみえる?」

「どんなふうに見えるって……。」

 そう目の前の光景は、全ても物質がグラデーションのシースルになって、おまけに360度全ての方向が視界良好だ。

 先ほど物質と云ったけど、ミキとヤミは別モノだ。これが高次元で存在しているってホントの意味なんだ。この感動的な光景をなんて伝えるべきなんだ?


「……服が透けて、充輝さんと夜充さんの裸が見える……」

 二人の肌がみるみるうちに赤くなっていく。いや、その前に、胸と股間を素早く隠された。

 うん。恥じらう姿もいいな。二人のアドバンテージが一気に吹っ飛んだみたいで気持ちがいい。

「コンニャローーーー!!!! 」

 そんな優越感も束の間、隣からいきなり目つぶしが飛んできた。

 目、目が潰れた。両手で目を覆うと後ろから、延髄にラリアットと飛んできた。

 く、首が!!むち打ちになる。

 座っていたソファーから落ちて、テーブルの角で額を打つ。

 ガン!!

 大きな音が鳴り、目から星が出た。物理的に……。

「あっ、こいつ、波紋展開、虹霓(こうげい)彩境(さいけい)しやがった」

 虹霓彩境? 虹の事? 一体何のことだ?

 俺は目を潰されて周りが見えてなかったが、俺を中心に表面が虹色のシャボン玉が徐々に広がっていき、部屋を飲み込んでいくイメージだったみたいだ。

 その光景を見て、充輝と夜充は飛び退いていた。ここで波紋領域に飲み込まれると、二人には不利な状況が生まれる。波紋領域は展開した神の領域なのだ。

「ヤミ! 私たちも波紋展開しないと! 波紋展開! 極光(きょっこう)聖天(せいてん)!」

「波紋展開! 無明(むみょう)冥獄(めいごく)!」

 充輝からは閃光が、夜充からは漆黒が広がる。そして、いつもなら光と闇が混じり合いモノクロの世界を創り出すのだが……。ザギリの展開する波紋領域を押し返し広がり続けた光と闇は、充輝と夜充の間、ザギリを中心に壁に遮られた様に波紋を止め、その境界に虹色のグラデーションを創り出していた。

「ヤミ、この感じ久しぶりですね」

「なに、ノスタルジーに浸ってんだ? こいつは三竦(さんすく)みだぞ。こんな状態で気の遠くなるほどの時間を過ごし、苛立ちまぎれに眷属の神々をけしかけ、騒ぎを起こしてやっとあの場所から抜けだしたのに!」

「そうでしたね……、私たちはやっと束の間の自由を手に入れました」

「なに落ち着いてるんだよ。分かっているのか? あたしたちが波紋展開できるのは1日に1回が限界だ。もう、肉体も精神も長くはもたねえぞ!」

「そうでしたね……。眷属をけしかけて……、でも、その程度じゃこの境界は破れませんか?」

「ちっ!!」

 考える間もない。体が先に動いたヤミが神の紋章を最大限に強化すると再びラリアットをザギリの後頭部にぶちかました。漆黒の炎を纏っていた夜充の右腕は虹色の光に纏わりつかれている。

 ガン!!

 再び、額をテーブルに打ち付けた。ひょっとしたら右目も……。目の前で火花が散った。

 音が響いた途端、虹のグラデーションが消え、部屋にはモノクロの景色が浮かび上がり、その景色も二人が指を鳴らす音で掻き消え、元に世界に戻っていた。


 二人はザギリを挟んでおしりをペタリと地面につけて女の子座りをして、肩で息をしている。

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