第4話 充輝、興ざめだ。今日は引き分けってことで

「充輝、興ざめだ。今日は引き分けってことで」

「夜充、分かりました。記念すべき出会って一か月記念日は含め、これまでの戦績は31戦31分けですね」

 二人がそう言って、パチンと指を鳴らすと、突然、世界に色彩と音が戻って来た。

 そして、破壊尽くされた公園は何事もなかったように正常に戻っている。そうなると気持ちも若干落ち着いて、冷静に周りが見えてくる。

 さっきまで、白いゴスロリを着ていた少女は白いワンピースに白いニーソックス。その出で立ちはまるで天使だ。いや、容姿だけでなく醸し出す雰囲気も聖女のようだ。

 片や黒いゴスロリを着ていた少女は、パンクなのか破れた派手なTシャツに皮ジャンとミニのレザースカート。そこから覗いている足は黒の網タイツに覆われて、なんというか妖艶でその雰囲気は魔女のようだ。

 俺は二人の対照的な雰囲気に吞まれていた。

すると、白い少女が俺の右腕に腕を絡ませて来た。体に緊張が走ったが、いつまで経っても電撃は来なかった。

「逃がしませんよ」

 白い少女が、上目遣いで微笑んでくる。

「だな、積もる話もあるし、あたしの家に来いよ!」

 そう言って、黒い少女が左から肩を組んでくる。どちらの美少女も女の子らしい丸みを帯びていて触れているところが柔らかい。それに何かいい匂いもしている。

「あたしたちはあそこのマンションに住んでいるんだ。お茶ぐらいだすからさ」

 そう言って、さらに密着し俺を連行しようとするんだけど……。顔は可愛いし、スタイルは抜群だし名残おしいが、超常現象を引き起こすような得体のしれないこの二人とこれ以上関わりたくないが本音だ。

「いや、初対面の女の子の家に上がり込むなんて。問題でしょ」

 一応、常識を持ち出して固辞していたんだけど……。

「えっ、わたしたちって初対面になるのかな? じゃあ今世での私の自己紹介をするね。私は一条充輝。あの一条財閥の総帥、一条宗太郎の娘で、明日から一条学園高等部に進級するのよ」

「あたしは一条夜充。その充輝とは一応双子ってことになっている。同じく明日から一条学園高等部に進級だ」

 さあっと促すように、俺のわき腹を両方から突っついてきた。俺もするのか?いや、今の話を聞く限り、黙っていても、俺のことはいずれバレるわけで……。

「俺の名前は天気の天に野原の野、狭い霧と書いて、天野狭霧(アマノザギリ)。なんで君たちが俺の名前を知っているのか分からないけど、君たちの言っているザギリさんとは人違いだと思う。ただ、俺も明日から一条学園高等部に編入することになっている」

「へえー、あたしらと同じ高校か?」

「しかも、編入生とは優秀なんですね」

「まあ、そういうことで続きは入学式の後でも」

 俺は名残惜しいが、彼女たちの手を振り切ろうとして……。

「逃がしませんよ。大事なことだから二回いました」

「積もる話がたくさんあるんだ。さあ、行くぞ」

 さらに、白い少女は腕をより強く絡めてきて、黒い少女は肩を組んでいる手に力が入る。そして、逃げ場を失った俺は、二人に引きずられるように連行されていく……。


 今、出て来た一条学園って云うのは、世界有数のコングロマリット企業、一条財閥が創立した幼稚園から大学までの一貫教育の学校だ。創始者の一条権蔵(二人の曾爺さんに当たる人だ)が、戦時中、全社一丸となって困難に当たるべき時に、くだらない学閥によって足を引っ張り合い、危うく解体されるのを見て創立したらしい。

 だから、今の一条財閥の重役クラスは全員が一条学園卒だ。また。その子息たちも一条学園出身だ。授業も学問というよりビジネスの実践に即しており、学校というより一条財閥に入るための訓練校になっている。

 そんな一条財閥エリート養成学校になぜ俺が編入できたのか? そこのところは俺にも分からない。

 一条財閥の末端企業の万年係長の親父に届いた一条学園の編入試験の案内。断るわけにもいかず、それでも俺は家から出るチャンスと死ぬほど勉強して臨んだ試験。

 

 それでも、テストの出来は最悪。背水の陣を敷いての面接試験。

 そこで受けた面接官の言葉。今思い返してみると、この二人のことを暗示していたんじゃないのか? この二人の放つ雰囲気はまさに相反する光と闇だ。

「君のその恰好。何のつもりだ。まあ、恰好でビジネスが上手いけば苦労しないんだけどな……。一条財閥は世界中に敵がいる。そんな常識も習慣も違う相手と戦うには、正義だけじゃ勝てない。当然、一条財閥も清濁合わせ持つ企業だ。そんな財閥で君はどんな役割を演じられるんだ?」

 なるほど、試されているのか? 俺の実力じゃ汚れ役しか回ってこないと暗に言われているのか? だったら、その汚れ役だってなんだってやってやる。今の生活から逃れられるのなら……。

 そう考えて、やっと開いた口から出た言葉は……。

「光と闇の境界になりたいです。光あるところに闇有りと云います。でも、決して光と闇は交わりません。交わってしまえば、秩序が崩壊し、財閥はその巨体を維持できなくなってしまうからです」


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