第3話 さっきの衝撃波で

 さっきの衝撃波で、俺が肌身離さず着けていた右目の眼帯が吹き飛んでいた。

 右目の眼帯そして左手には指貫グローブ……。いや、決して俺は痛い病気持ちってわけじゃない……。


 この右目と左手に、俺に誰一人近づいてこなかった原因があるんだ。

 俺の右目は瞳孔と白目の境、いわゆる光彩の部分が虹色になっている。アースアイというらしいんだが、俺の場合は禍々しいほど輝いているのだ。

 それは誰に言わせても「気味が悪い」の一言で片付くだろう。さらに左手の甲には焼き印を押したような痛々しい陰陽太極図のような紋章が浮き上がっている。

そう、陰陽道で陰と陽の対局をあらわす勾玉を二つ重ねたようなあれだ。

(この子は呪われている……)

 俺の容姿を見た誰もが持つ第一印象がそれだ。しかも、両親さえ御多分に漏れずそう思っていたのだ。

 俺は小学校の時は前髪で目元を隠し、中学校からはさらに眼帯と指貫グローブでそれらを隠していた。だけど、小さい頃から俺を知っている奴らが言いふらすので、「見せろ」「嫌だ」の押し問答は日常茶飯事。俺はいじめを受け続け、俺の異様な容姿を知らない者は周りにはいない。

 やっと、俺のことを誰も知らない町に引っ越してきたのに、偶然。異常な少女たちの争いを目撃した挙句……、共闘して俺に向かってきやがった!?

 とても、この二人の攻撃を防げそうにない。引っ越し初日が俺の命日になるなんて……。

 

 そんな九死に一生を得た俺の耳に二人の叫び声が聞こえてくる。

「まさか? てめえ!! アマノザギリか!!」 

 夜充(やみ)と呼ばれた黒い少女がドスの利いた声で、俺に呼び掛けてくるが……。

 なんで、この女は俺の名前を知っているんだ? 今、ここで初めてあったはずなんだけど。

 そんな疑問に答えるように、充輝(みき)と呼ばれていた白い少女が口を開く。

「いいえ、そんなはずは……。でも、波紋領域に入って来られるってことは?」

 いや、否定しあぐねて小首を傾げている。輝く様な(いや、実際に輝いているんだけど)美少女が小首を傾げる仕草のなんと心安らぐことか……。こんなピンチにも関わらず思わず見惚れてしまった。


「答えろ!! お前はアマノザギリなのか?!」

 再び、黒い少女が吠えた。それに対して白い少女は黒い少女を抑えるように言葉を呟いた。

「瞳の虹彩、それに手の甲にある神の紋章(エンブレム)。何よりこの波紋領域に入り込めるなんて……。

聞くまでもないわ。あなた、アマノザギリなんでしょ?」

 そう言って、白い少女が懐かしそうに俺に手を伸ばしてくる


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注:アースアイとは瞳孔と白目の間の光彩がこのように虹色になっている目。五〇悟ような目です。ネットで検索するとすぐでてきます。

天野狭霧(アマノザギリ)の右目は綺麗というより不気味なほど鮮やかです。


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 それなのに、俺はその場に立ち尽くし、動けないでいた。

 こんな人間離れした女たちからは直ぐに逃げるに限る。でも、銀色を帯びた赤い瞳に射竦められ、囚われたように目を背けることもできない。

 近い近い。心臓が高速で脈打っている。女の人にそんなにそばに寄られたことがないんだ。それにそんな奇麗な目で、俺の禍々しい目を覗き込むんじゃない!


「前髪で奇麗な瞳を隠す必要なんてないのにね」

 そう言いながら前髪をかき上げようと陶器のような白い指先が俺の額に触れた週間、俺の額に静電気のような衝撃が走った。

「「痛って(い)!!」」

 思わず仰け反り、少女は腕を引っ込め、赤く爛れたようになってしまった紋章のある右手を撫でている。

「そっか、波紋領域を展開しているから……」

「波紋領域?!」

 この美少女が俺に触れようとした瞬間、我に返される鋭い痛み。さっきの見つめ合う甘い雰囲気はどこに行ったんだ? 

大体、波紋領域って何なんだ? 罰ゲームか何かなのか? 俺、この少女たちに何かしたのか? 電撃を喰らわされるなんて、どこかのトラ柄ビキニの電撃娘じゃないよな?


「そっか……。アマノザギリさん。波紋領域と云うのは私たち神が神の力を行使するために、自ら造りだした領域ですよ。もっとも、肉体があるために神の時の力の1%以下ですけどね。強化されているとはいえ、肉体がもちませんからね」

「神の力を行使する領域? 君たちは自分たちのことを神だって言うのか? 宇宙人だって言われた方がまだ現実的だよ」


「ザギリ?! 神の標(しるし)を隠すような、ヘタレな恰好をしていると思ったら、神の記憶がないのか? 」

 黒い少女ががっかりしたように腕組みをして呟(つぶや)いているけど……。

 ヘタレって、俺の恰好をヘタレっていう人、初めて見た。普通は病気?って遠巻きにされるとこなんだけど……。

だけど、記憶って、こんな印象的な女の子たちを忘れるわけがないよな? こちらとしては話についていけない上に、あの電撃はかなりヤバい。いや、この二人、異常な力を持っている上に頭のほうはさらにヤバい。これ以上付き合うのは命が危険だ。

「すみません。人違いのようなので……。帰ります」

 そう言って、公園から出ようと後退(あとず)さる。


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