桃から生まれた†シュヴァインライゼ†

かぎろ

むかしむかし、あるところに……

 むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。

 おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。

 おばあさんが川で洗濯をしていると、どんぶらこ、どんぶらこと、大きな桃が流れてきました。


「あら、とってもおいしそう!」


 おばあさんは大きな桃を拾って、家に持ち帰りました。


 おじいさんが帰ってきたので、桃を食べようと思ったふたりは、桃を割りました。すると、なんと中から元気の良い赤ちゃんが飛び出してきました。

 子どものいなかったおじいさんとおばあさんは大喜び。

 桃から生まれた男の子を、おじいさんとおばあさんは†シュヴァインライゼ†と名付けました。


「大声で泣いて、†シュヴァインライゼ†は元気な子じゃのお」

「†シュヴァインライゼ†や。たくさん食べてすくすく育つのですよ」


 おじいさんとおばあさんは†シュヴァインライゼ†を可愛がり、大切に育てました。

 そして、月日のたったある日。

 大きくたくましく成長した†シュヴァインライゼ†は、おじいさんとおばあさんの前で、背筋の伸びた正座をして言いました。


「おじいちゃん、おばあちゃん。僕は鬼退治に行こうと思います」

「†シュヴァインライゼ†……その真剣な眼差し。心を、決めたんじゃな」

「心配だけれど……あなたが決めたことですものね。†シュヴァインライゼ†、決して無理はせず、頑張ってくるのですよ」

「うん。今まで育ててくれて、ありがとう。……それで、その。伝えたいことがあるんだけど」

「なんじゃ、言ってみなさい†シュヴァインライゼ†」

「言い残したことのないようにね、†シュヴァインライゼ†」

「ええと……」


 †シュヴァインライゼ†は申し訳なさそうに言いました。


「僕の名前これ何なの?」

「何なの、というと何じゃ?」

「いや……その……シュヴァインライゼって、なんか、恥ずかしいんだけど……」

「恥ずかしいことがありますか。おじいさんとわたしが、愛や願いを込めてつけた名前なのですよ」

「うん……そうなんだろうけど……ちなみにシュヴァインライゼってどういう意味なの?」


 おじいさんとおばあさんは黙った。


「考えてないんじゃん!! 愛や願いは!?」

「こら! ちょっと答えられなかっただけで考えてないと決めつけるんじゃあない。わしはばあさんに答えてもらおうと思って黙ったんじゃ」

「わたしもおじいさんに答えてもらおうと思って譲ったんですよ」

「なすりつけ合うな!!」

「仕方ないのう……シュヴァインライゼの意味じゃな? 少し待っておれ」


 そう言うとおじいさんはスマホを取り出して、Siriに「ドイツ語のシュヴァインライゼの意味を教えて」と話しかけた。


「昔話の世界観守れよ!!」

「ほうほう……シュヴァインとライゼは別の単語のようじゃな」

「なんとなく聞いたことあった格好良いドイツ語を繋げただけでしたからねえ」

「僕は何を信じたらいい?」

「それでおじいさん、その意味は?」

「シュヴァインが豚で、ライゼが旅行」


 †豚旅行†であった。


「意味がわかんないよ!! 何なんだよ!! 普通の名前にしてくれよ!!」

「黙れ豚」

「旅行をつけろよ!!」

「なんじゃ口ごたえしおって。もっと面白い名前を付けてやろうか」

「もう面白ネームと認めてるし!」


「まあまあ、おじいさん。子どもの言うことは尊重するものですよ」

 おばあさんがなだめ、†シュヴァインライゼ†の方を向く。

「それであなたは、どんな名前が良かったのですか?」


「えっ……どんな名前。うーん……僕は桃から生まれたわけだから……桃太郎、とか?」


 †シュヴァインライゼ†は我ながらしっくりくる名前が出たなと思った。

 しかしおじいさんとおばあさんは爆笑した。


「桃太郎て!」

「ネーミングセンスが壊滅的!」

「あんたらだけには言われたくないよ!!」

「遊び心が足りんのう」

「息子の名前で遊ぶな!!」

「そ、それで、フフッ、これからはフフフッ、あなたは桃太郎と名乗るのですかブッフォ!」

「どこにそんなツボにハマる要素があったんだよ!! ああそうだよ、今日から僕は桃太郎! シュヴァインライゼなんていう馬鹿みたいな名前とはおさらばだ!」


 こうして†シュヴァインライゼ†は桃太郎に改名し、暗雲立ち込める鬼ヶ島へ向けて旅立った。桃太郎は元々の奇妙な名前のせいで有名になっており、†シュヴァインライゼ†のイメージが強かったため、道中で桃太郎と呼ばれることは終ぞなかったのであった。めでたし、めでたし。

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