第3話
「残念だったね~、カイア。あんた中の警護やりたかったんでしょ?」
大量の料理を盛り付けたお盆を持ちながらにやついているリサが、カイアとレンのいるテーブルにやってきた。
模擬戦が終わり、訓練生は食堂で食事をしていた。
「やっぱり、リサには敵わないな……」
見ていて気の毒になるほど、リサは項垂れている。
「でも善戦してたわよ?ただ、相手が悪かったわね。いくら親友でも手を抜くわたしじゃないからね」
リサは、豪快に食べながら楽しそうに話している。
カイアの初戦の対戦相手はリサだった。呆気なくリサに負けてしてしまい、一生一度しかないであろうチャンスはあっという間に潰えた。
「食べながら話すなよ。本当にがさつだな」
「あんたと戦えなくて残念だったわ。どっちが強いか一回ハッキリさせたほうがいいってずっと思ってたのよ」
「戦わなくてもわかる。一番強いのは僕だ」
「いいや、私よ」
「僕だ」
「わーたーしー!」
食べる手を止めて、お互い詰め寄りながら口喧嘩を始めるリサとレン。いつもの光景だ。
「リサもレンも、中の警護、が、頑張ってね」
カイアの寂しそうな声に、二人の言い争いがピタッと止まる。
模擬戦を勝ち抜いた上位二名は、リサとレンだった。二人は訓練生の中で圧倒的に強い。それどころか、大人にも匹敵するくらいだ。戦う前から二人の勝利はわかりきっていたことだった。
「カイア。第一惑星人に会いたいのね」
リサは声をひそめながら、慰めるようにカイアの背中をさする。
「まだ彼らが友好的だと信じているんだね。君が優しいのは知っているけど、そんな考えはもう捨てるんだ」
「そうよ。第一惑星人が何をしてくるかわからないわ。とても危険なのよ」
二人共哀れそうにこちらを見ている。
「サイアスがね、前に言ってたの。第一惑星の惑星王は良い人だって。だから、そんなに警戒しなくても大丈夫だと思う」
リサが何か言いかけようとする。きっと否定の言葉だろう。大好きな友人の口からそんなものは聞きたくない。閉じ込めた思いが溢れてくる。
「ほ、本当に他の惑星の人達は、悪い人しかいないのかな?会ったこともないのに、恐ろしいだなんて決め付けていいのかな?お話してみたら仲良くなれるかも。まったく知らない人達のこと、憎むなんてできない」
「じゃあ、なぜサイアスは帰ってこない?」
頭上から岩のように重たい声が降ってくる。
「ザイル教官?!」
リサとレンの顔が青ざめている。今カイアが話した内容を聞いていたのだろう。食堂にいる全員が、静止してこちらを見ている。相当まずいことが起きている。
「サイアスがいなくなってもう十年だ。誰よりもつらい思いをしたのはお前だろう、カイア。なぜそんな日和ったことが言える?」
「……」
ザイル教官の威圧感に言葉が出てこない。
「いいか、お前らよく聞け。異星人は我々にはない、超自然的な特殊能力を持っている。カイア、この特殊能力をなんと言う?」
「マナです……」
「そうだ。何度も教えたことだな。マナには圧倒的な力がある。奴等はマナを持たない我々を見下している。その気になればいつでも殺せると、そう思っている」
「ほ、本当に彼らがそういったのですか」
止せばいいのに、火に油を注ぐとはまさにこのことだ。カイアは、発言してすぐ後悔した。
「カイア。もう一度同じ質問をする。なぜサイアスは戻ってこない?この惑星を出て、外に行ったサイアスは一体どこに行ったんだ?何よりも我々を愛し、誰よりもこの惑星のことを大切にしていた惑星王サイアスが帰ってこないなんてあり得るか?」
「……わかりません。」
「異星人に殺されたからだ!」
怒声が響き渡る。
「サイアス失踪の理由を知っている者が必ずいるはずなんだ。しかし、奴ら異星人はシラを切り続けている。サイアスがいなくなり、同盟を抜けて我々が独立してから十年だ。その間、ひたすらに身体能力を高め続けた。今の我々ならマナの力にも負けない。第一惑星人がいきなり来ると聞いて、怖気付いている者もいるだろう。だが、臆するな。お前らは強い!」
「そ、そうだ…。俺達は強い。第一惑星人なんて怖くねぇ!」
遠くのテーブルから訓練生が声を上げる。
「マナなんて怖くないわ。私達の力でねじ伏せればいいのよ!」
「今までどれだけ俺達が訓練してきたと思ってんだ!バカにしてきた奴らを見返してやろうぜ!」
血気盛んな言葉が、そこかしこから聞こえてくる。ただの警護なのに、これではまるで戦争を始めるみたいだ。
共に厳しい訓練をくぐり抜けてきた訓練生達が、カイアには恐ろしい存在に見えた。
「休憩時間は終わりだ!訓練場に戻れ!明日の警護の説明をする。」
「はい!」
活気付いた訓練生達は、勢いよく返事をした。すぐに食器を片付け、訓練場へと戻って行く。
「カイア。お前は今すぐ家に帰れ。そして、対談が終わるまで一歩も外に出るな。後で家の前に監視を付けさせる。」
「そんな……」
後頭部を強く打ったような衝撃が走る。
「ザイル教官。それはちょっと厳しすぎではないですか」
「そうです、教官。外の警護なら問題ないでしょう?」
友人二人も流石に抗議してくる。
「お前達も謹慎されたいか?」
鋭い眼光が二人に向けられる。黙るほかなかった。
「お前達は中の警護をするんだ。大役を務めることの自覚を持て。今から警護が終わるまでカイアのことは忘れろ。いいな?」
「……はい。」
「わかれば良い。遅れるなよ」
ザイルは踵を返し、食堂から出て行った。
食堂には三人しかいない。気まずさが漂う。
「カイア、大丈夫?」
心配そうにリサが聞いてくる。
「うん。ご、ごめんね。私、家に帰るから、それじゃ…」
言い終わる前に駆け出した。二人に情けない表情を見られたくなかった。
「カイア!」
伸ばしかけたリサの腕を、レンが掴んだ。
「行かせてやるんだ。今の僕らがカイアに出来ることは、何もない」
「そうだけど……」
「さぁ、訓練場に戻ろう」
後ろ髪を引かれる思いで、二人も食堂を後にしたのだった。
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