第2話

 集落を抜け、大きな四角い建物に向かう。ここが目的地の訓練場だ。


「間に合ったー!」


 勢いよく扉を開けると、カイア達と同じ十代後半の少年少女が数十人いた。皆訓練生だ。


「ギリギリだよ二人共。たまには余裕をもって行動できないの?」


 この惑星の大地と同じくらい、いやそれ以上に冷たくて落ち着いた声が、二人に投げかけられる。


「おはよう、レン。そういうあんたはまた一番乗り?時間はもっと有意義に使ったら?」


「フン。君とは相容れないね」


 リサと口喧嘩を始めた銀髪の少年の名は、レン。頭脳明晰で冷静沈着、リサが炎ならレンは氷だ。


「おはよう、カイア」


「お、おはよう。わ、私が寝坊したせいなの。リサは悪くないよ」


 バツが悪くてレンの顔を直視できない。リサにも申し訳ないし、なんだか消えてしまいたくなってきた。


「カイアが寝坊なんて珍しいね。どこか具合でも悪い?」


 俯くカイアを心配そうに見つめるレン。


 彼は冷静だが、決して冷徹ではない。冷たい言葉の裏には、温かい優しさがある。それは、カイアもリサも長年の付き合いでよくわかっていた。


「違う。元気だよ」


 カイアは勢いよく首を横に振る。


「また丘に行ってたのよ。寝ちゃってたみたい」


「カイア。何をしようが君の自由だけど、あそこに行くのは少し控えたほうがいいんじゃないかな」


 二人の声色は呆れを含んでいる。カイアがあの丘に行くことを、好ましく思っていないようだ。


「ご、ごめんなさい」


 ますます萎縮してしまうカイア。レンとリサは、カイアにかける言葉が見つからず、お互い顔を見合わせることしかできなかった。


 訓練場に大きな声が響き渡った。


「整列!」


 ザイル教官だ。大柄で筋肉質、頭を丸めた中年男性が放つ厳かな一声は、賑やかだった場内を一瞬で無音にした。訓練生達はすぐさま三つの列を形成し、後ろに手を組んで姿勢を正した。


「お前達に重大な知らせがある。明日、第一惑星の惑星王がこの惑星にやってくる」


 場内がざわめき出す。しかし、先程の和やかなものとは違い、驚きと困惑に満ちたものだった。


「静かに!!お前らが驚くのも無理はない。我が惑星が同盟を抜けてから十年が経つ。それ以来、他惑星との接触は一切なかった。異星人を見たことさえないだろう。だが、案ずるな!お前達が、いやこの惑星の全ての者が、厳しい訓練をしてきた!それは、なぜだ!?」


「他惑星からの攻撃に備えるためです!」


 ザイル教官に負けないくらい大きな声で返答したのは、リサだった。


「そうだ!我々以外の宇宙人は皆敵だ!」


 もう何度も聞かされてきた言葉だ。そして、カイアの大嫌いな言葉だ。耳を塞いでしまいたいが、今の姿勢を崩すわけにはいかない。


「第一惑星は対談のために来ることになっている。しかし、何をしてくるかわからない。そこで、お前達には警護を担当してもらう」


 左隣にいる訓練生は、顔に大量の汗をかいている。右からは、唾を飲み込む音が聞こえた。


「今から一対一の模擬戦を始める。勝ち抜いた二名は、対談の会場の中、それ以外は外を担当してもらう。中を警護する者の責任は重大だ。覚悟して臨むように。それでは、組み合わせを発表する」


 勝ちたい。カイアは、両の拳を握りしめた。


 物心ついた頃から、異星人は恐ろしい存在だと教えられてきた。いつ彼らが侵略してくるかわからない。その時に備えて辛く厳しい訓練をしてきた。


 脅威の存在。誰もがそう信じて疑わない。だが、カイアは違った。


 異星人に会うチャンスは滅多にない。この機を逃したら、次はないかもしれない。

 必ず勝たなければ。


 一つ深呼吸をして、気合いを入れた。

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