なぜか懐かしかった出会い。

貴音真

本好き仲間との出会い

 なぜか懐かしかった。

 理由はわからないが懐かしかった。

 あの時感じた想いは今も忘れていない。






「ぐはっ!?」


 いつも行っている古本屋で本を物色していると、急に横から突撃された。ただぶつかったのではなく、確かにされたのだ。


「あっ!す、すみません!今拾いますね!」


 俺は突撃された弾みで持っていた本をぶちまけて派手に転けていた。


「いやちょっと待てよ、先にこっちだろ!つかいてぇ…よ?」


 相手は確かに『すみません』と言っていたが、俺の身体からだを気遣うよりも先にぶちまけた本を気遣っていたことに腹が立ち、俺は思わず高圧的に出ようとした。

 しかし、相手の顔を見るとなぜか何も言えなくなった。


「えっ!?あ、すみません!そうですよね!先にあなたですよね!ごめんなさい!あの…お怪我はありませんか?」


 俺に突撃してきたのは女の子だった。

 成人男性の平均身長よりも僅かに低い俺よりも二十センチ近く低い小柄なその子は、手にしていた本を床に置き、俺の目を見てそう言った。

 その時、初めて気がついた。

 俺と彼女の周りには三十冊以上の本が転がっていた。

 俺が持っていたのは三冊だった。


「…これ、全部きみが?」


 思わず訊いていた。

 転がっているのは分厚いハードカバーの本から薄い短編小説の文庫本、更には子供向けの絵本や図鑑の様なものまであった。


「え?あ、はい。まだ買う前なんですけど」


 彼女は少しだけ照れくさそうにしながらそう答えた。

 その彼女の姿を見ると激突された理由など訊く気がすらしなかった。

 彼女の姿は懐かしかった。

 昔の自分を見ているようだった。


「あの、よかったら運ぶの手伝おうか?女の子一人じゃ大変でしょ?」


 そう言った瞬間、俺は少し後悔していた。

 彼女はどう見ても俺より五か十は歳下に見えた。

 三十過ぎのおっさんからこんなことを言われたら警戒するに決まっている。どう断ればいいのかわからくて変な気を使わせてしまうかも知れない。むしろ、断りたくても断れずに混乱させてしまうかも知れない。

 訂正するなら早めの方がいいと感じた俺が再び口を開こうとした時だった。


「本当ですか!?ぜひお願いします!私の家はここから歩いて五分くらいですから!実は毎回持ち帰るのが大変で…いつも台車を借りて何往復もしていたんです。そうだ!男の人にお手伝いして頂けるならもう少し買っちゃっても良いですかね?」


「え?あ…ああ、うんまあ…家が近いんだったいいんじゃない?」


「やったあ!実は泣く泣く淘汰した本が十冊くらいあるんです!」


 彼女は嬉々として周囲の本を拾い始めた。

 その姿を見て俺は再び少し後悔していた。

 それと同時にが出来そうな予感に胸を躍らせた。


「あの…」


「はい?なんでしょうか?」


「俺ももう少し買いたいんだけど、持ち帰れなそうだから少しの間だけきみの家に置いてもらってもいいかな?」


 我ながら軟派な提案だと思った。

 ナンパしているつもりはないが、提案としては軟派以外の何者でもない提案だった。

 しかし、その心配は杞憂だった。


「はい!ぜひそうしてください!私の家は家というより、書庫に私がいるという感じなので何冊でもどうぞ!あ、でも私が持っている本ならお貸ししますから、買う前に言ってくださいね!」


 彼女は当たり前のようにそう言った。

 家というより書庫、その言葉がなぜか懐かしかった。

 いや、なぜかではない。

 昔の自分の部屋がそうだったため、懐かしく感じたのだ。

 そして、俺は彼女自身に懐かしさを感じた。

 それはなぜかわからない。

 ただ、懐かしいと感じた。

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