EP.28

 ツナグは、朝日の眩しさに目を覚ました。隣にいたはずの林太郎がいない。


「林太郎?」


 ツナグは、まだ覚めきらない瞼を擦りながら、林太郎を探す。バラバラに脱いでしまったブーツは、綺麗に揃えて置いてあった。

 ほわんと、味噌の良い香りが、ツナグの鼻をくすぐる。


「あ、この匂いは……!」


 ツナグは、ガバッと上体を起こして、鼻をヒクヒクと動かす。

 ツナグは、もどかしそうにブーツを履く。履き終えると、バタバタと部屋から出て、階段を駆け降りる。


「おはよう林太郎! これは、お味噌汁の香りだね!」


 ツナグは、大きな声で味噌汁を作っている林太郎に声をかける。

 林太郎は、味噌汁を混ぜる手を止めて、ツナグの方に振り返った。


「おはよう、ツナグ」


 林太郎が、にこりと笑う。剛はいない。


「今日の朝ごはんは、お味噌汁と、漬物と、卵焼きだよ」


 林太郎の言葉に、ツナグはガッツポーズをする。


「やったぁ! ふふ、楽しみだなぁ」

「ツナグは、本当にお味噌汁が好きだね」


 林太郎がクスリと笑う。そんな林太郎に、ツナグは、反論する。


「違うよぅ。林太郎のお味噌汁だから好きなのさぁ。林太郎のお味噌汁は、世界一だよ!」


 話初めは、頬を膨らませていたツナグだったが、話し始めると、すぐに笑顔になった。

 林太郎は火を止めると、棚から食器を取り出し始める。

 ツナグの家は、漆塗りのお椀が揃っている。

 本人曰く、この世界の住人の一人に、漆塗りの職人がいるとのこと。この世界で交流するうちに、お椀やお皿、箸と、食器が増えていったのだった。


「朝から、賑やかだな」


 ブスッとした顔で、剛がキッチンに入ってきた。剛は、向こうの世界と縁を切った後も、寝起きの悪さに振り回されていた。


「剛さん、おはよう! よく眠れたかい?」


 ツナグは、にこにこと剛を見上げた。


「おかげさまでな……感謝する」


 剛は、最後だけボソッと呟くように、言葉を発した。少し耳が赤い。

 そんな剛を見て、ツナグと林太郎はにこっと笑った。


「さ、二人とも手伝ってくれないか? 朝ごはんが冷める前に、早く食べてしまおう」

「うん!」


 林太郎の言葉に、ツナグが大きく返事をする。剛は、無言でご飯を入れ始めた。


「じゃあ……ツナグは、この卵焼きのお皿を運んでくれるかい?」


 林太郎が、何をしようかそわそわしているツナグに声をかけた。


「うん!」


 ツナグは、ぱぁぁっと目を輝かせると、卵焼きの入った皿をお盆に載せて、テーブルへと運んだ。

 林太郎は、その間に味噌汁をお椀に入れ、テーブルへと運んだ。


「さて、これで揃ったかな?」

「うん!」


 ツナグは、待ちきれないといった表情で、林太郎と料理を交互に見る。


「よし、じゃあ手を合わせて……」


 林太郎の言葉に、一人と一匹が手を合わせる。


「いただきます」

「いただきます!」

「いただきます……」


 林太郎の言葉に、ツナグは大声で、剛は小声で、復唱した。

 ツナグは、器用に箸を持つと、真っ先にお味噌汁に手を伸ばす。

 すぐに、一口口に入れると、右頬がとろけるのを抑えるように、右前足をぴとりと手をそえる。


「んー! やっぱり林太郎の作るお味噌汁は、世界一だぁ」

「ありがとう。おかわりもあるから、たくさん食べると良い」

「やったぁ!」


 林太郎は、愛おしそうにツナグを見つめる。

 そんな二人を見ながら、剛はずずっと味噌汁を口に運んだ。


「おいしい……」


 一口飲んだ剛も、小さく感嘆の声を上げる。


「でしょ⁉︎ でしょ⁉︎ 林太郎のお味噌汁は、世界一なんだよ!」


 剛の言葉に、ツナグが嬉しそうに返事をする。林太郎は、そんな二人を見つめながら、静かに、卵焼きに手をつけた。


「林太郎の作る料理は、どれもおいしいねぇ」


 右前足をぴっとりと頬に付けたまま、ツナグは、ほぅっとため息をついた。


「料理って、こんなに温かいんだな」


 剛の言葉に、ツナグが反応する。


「そうだよ。人が作る料理は、温かいんだよ」


 ツナグの言葉に、剛はふっと笑って、言葉を発した。


「ここに置いてくれて、ありがとう」


 その言葉に、二人はキョトンとすると、すぐに笑顔で言葉を返した。


「なんてことはないさ。君の気持ちが楽になることが、僕たちにとっても嬉しい。君は今まで頑張って来たんだから、ここでは、ゆっくりすると良いよ」

「そうだよ! 剛さんは今まで頑張って来たんだから、ここでは自由にして良いんだよ! 僕と林太郎は、怒ることなんてないし、ここは自由が許される場所なんだから」


 ツナグは、にこっと笑うと、ふと思い出したように、言葉を続けた。


「そうだ! この間、とある魔女から、おいしいハーブティーを貰ったんだ。彼女の作るハーブティーは、絶品だよ! 今日のアフタヌーンティーにでも飲もうよ!」


 ツナグの言葉に、林太郎が反応する。


「あぁ、あの西洋のおやつの時間にするものだね。一度やってみたかったんだ。ツナグ、また後で教えておくれ」


 林太郎はそう言って、ずずっと味噌汁を飲んだ。


「もちろん! 剛さんも良かったら一緒に飲む?」


 ツナグは、一緒に飲みたそうにそわそわしながら、剛に問いかける。尻尾がくねくねと動いている。


「そうだな……。俺もいただくよ」

「やったぁ!」


 剛の返事に、ツナグは両手を上げて、万歳をした。


「ほらほら、あんまり騒ぐと、お味噌汁を溢してしまうよ」


 林太郎が、軽く諌める。


「わ! ほんとだ! 危ない危ない!」


 ツナグは、すぐに大人しくなると、卵焼きに手を伸ばす。

 そんな林太郎とツナグのやりとりを見ながら、剛はなんだか温かい気持ちになるのを感じていた。

 賑やかな朝食は、隣の家の魔女にまで聞こえていた。


「ふふっ。ツナグは、今日も楽しそうね。またハーブティーとケーキをお裾分けしようかしら」


 魔女は、柔らか微笑みを浮かべると、作りかけのキャロットケーキの生地に、もう一度手をつけ始めた。

 穏やかな朝が、緩やかに過ぎていく。


「よし、じゃあ手を合わせて……」


 林太郎の言葉に、一人と一匹が手を合わせる。


「いただきます」

「いただきます!」

「いただきます……」


 林太郎の言葉に、ツナグは大声で、剛は小声で、復唱した。

 ツナグは、器用に箸を持つと、真っ先にお味噌汁に手を伸ばす。

 すぐに、一口口に入れると、右頬がとろけるのを抑えるように、右前足をぴとりと手をそえる。


「んー! やっぱり林太郎の作るお味噌汁は、世界一だぁ」

「ありがとう。おかわりもあるから、たくさん食べると良い」

「やったぁ!」


 林太郎は、愛おしそうにツナグを見つめる。

 そんな二人を見ながら、剛はずずっと味噌汁を口に運んだ。


「おいしい……」


 一口飲んだ剛も、小さく感嘆の声を上げる。


「でしょ⁉︎ でしょ⁉︎ 林太郎のお味噌汁は、世界一なんだよ!」


 剛の言葉に、ツナグが嬉しそうに返事をする。林太郎は、そんな二人を見つめながら、静かに、卵焼きに手をつけた。


「林太郎の作る料理は、どれもおいしいねぇ」


 右前足をぴっとりと頬に付けたまま、ツナグは、ほぅっとため息をついた。


「料理って、こんなに温かいんだな」


 剛の言葉に、ツナグが反応する。


「そうだよ。人が作る料理は、温かいんだよ」


 ツナグの言葉に、剛はふっと笑って、言葉を発した。


「ここに置いてくれて、ありがとう」


 その言葉に、二人はキョトンとすると、すぐに笑顔で言葉を返した。


「なんてことはないさ。君の気持ちが楽になることが、僕たちにとっても嬉しい。君は今まで頑張って来たんだから、ここでは、ゆっくりすると良いよ」


「そうだよ! 剛さんは今まで頑張って来たんだから、ここでは自由にして良いんだよ! 僕と林太郎は、怒ることなんてないし、ここは自由が許される場所なんだから」


 ツナグは、にこっと笑うと、ふと思い出したように、言葉を続けた。


「そうだ! この間、とある魔女から、おいしいハーブティーを貰ったんだ。彼女の作るハーブティーは、絶品だよ! 今日のアフタヌーンティーにでも飲もうよ!」


 ツナグの言葉に、林太郎が反応する。


「あぁ、あの西洋のおやつの時間にするものだね。一度やってみたかったんだ。ツナグ、また後で教えておくれ」


 林太郎はそう言って、ずずっと味噌汁を飲んだ。


「もちろん! 剛さんも良かったら一緒に飲む?」


ツナグは、一緒に飲みたそうにそわそわしながら、剛に問いかける。尻尾がくねくねと動いている。


「そうだな……。俺もいただくよ」

「やったぁ!」


 剛の返事に、ツナグは両手を上げて、万歳をした。


「ほらほら、あんまり騒ぐと、お味噌汁を溢してしまうよ」


 林太郎が、軽く諌める。


「わ! ほんとだ! 危ない危ない!」


 ツナグは、すぐに大人しくなると、卵焼きに手を伸ばす。

 そんな林太郎とツナグのやりとりを見ながら、剛はなんだか温かい気持ちになるのを感じていた。

 賑やかな朝食は、隣の家の魔女にまで聞こえていた。


「ふふっ。ツナグは、今日も楽しそうね。またハーブティーとケーキをお裾分けしようかしら」


 魔女は、柔らか微笑みを浮かべると、作りかけのキャロットケーキの生地に、もう一度手をつけ始めた。

 穏やかな朝が、緩やかに過ぎていく。

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星降る夜にひとときの願いを 黒田真由 @kuronekomugendai

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