49.王族狩りと行こうか
逃げ出す連中に氷を叩きつける。
「氷、足止めしろ」
放った冷気が一瞬で白く濁り、凍りついた。地に足を縫いとめる形になった連中の間に飛び降り、すたすたと歩いて移動する。中に混じった騎士が慌てて剣を抜こうとするが……身動きできなかった。
バカか? あんなに長い剣がするりと抜けるのは、体を捻って無意識に位置を調整するからだ。背負った剣も同様だった。その体が完全固定された状態で、腕だけで抜こうとしても途中で引っ掛かるのがオチだ。鼻で笑って通り過ぎる。
少し賢い奴は短剣を抜こうとしたが、オレは指差すだけでいい。発動中の魔法は、氷の冷気が短剣を持つ手ごと凍らせた。魔法陣を描かないオレは、人間に偽装した魔族にしか見えない。
牙、角、羽、爪、毛皮、魔族の特徴を何一つ持たないけどな。見つけた奴は片っ端から凍らせた。腹の下まで凍らせれば、ほぼ身動きが出来なくなる。魔王退治に向かう前に、一度訪れたアーベルシュタイン王城の記憶を辿り、左へ曲がった。
「こっちじゃなかったか」
見覚えのない景色だが、慌てた様子で走ってくる数人の女性に気づいた。クラシカルな足元まで長いスカートのメイド服、ピンクと白のドレスの女、護衛らしき女騎士……王女様とお取り巻き御一行様か。
「そ、そこをおどきなさい」
命じる侍女はまだ若い。子爵家か男爵家の未亡人あたりか。下級貴族の未亡人は王城で勤める比率が高い。どうでもいいことを考えながら、オレはにっこり笑ってみせた。笑顔をみて顔を顰めるなんて失礼だぞ。
「血の臭いがします」
女騎士が剣を抜く。犬並みの嗅覚の持ち主のようだが、関係なかった。すっと指差し「凍れ」と命じるだけでいい。魔力を対価に動く精霊と呼ばれる存在が、嬉しそうに彼女らの足を凍りつかせた。
「きゃぁああ!」
「動けぬ!」
「冷たいっ」
騒ぐ女性の中で一番偉そうな、ピンクのドレスの女に近づいた。見たこと、あったか? 記憶を辿るものの、興味がない王女なんて覚えていなかった。
「あ、あなた! 勇者様ではありませんか? この城に魔族が出たのです、私達を保護しなさい」
「命じる権利がお前にあるのか」
少なくともオレの側に命令を聞く理由はない。足元の氷同様に冷めた口調と眼差しを向ければ、ようやくオレが敵だと気づいたらしい。
「な、何をする気です!? 私は王女なのですよ、指一本でも触れたら、ただでは」
「国がなくなるってのに、王女だけ残っても不幸なだけだろ。一緒に処分してやるから、王の居場所だけ吐け」
耳障りな高音を遮ったオレに、無礼だの騒ぐ女騎士。苛立ったので、氷を上まで上げてやった。首から上を残して、完全な氷漬けだ。いままでの記録だと、15分程で呼吸困難になって死ぬ。心臓が止まるんだか、肺が停止するんだか。低体温症ってのもあるらしい。理由はどうでもいいが、結論は大事だった。
「国王はどこだ?」
「し、知りません」
「別にいいぜ、オレは勝手に探すからな。でも女騎士はあと10分もすれば死ぬ。ああ、護衛がいないと姫は怖くて外出できないんだっけな」
王女も氷漬けにし、ついでに隣の侍女も同じように首だけ残して凍らせた。
「侍女がいないと着替えひとつできない姫だ。全員セットじゃないと、地獄でも不自由だろう?」
オレって優しいな。くすくす笑いながら、助けてくれと泣き喚く彼女らを残して隣を通り過ぎた。王女がこっちに逃げたなら、国王は別の出口だろう。オレの記憶では王太子もいたから、全員バラバラに逃げたのか。面倒くせぇ。
文句を言いながら、口元が緩んだ。捕まったら終わりの鬼ごっこの始まりだぜ。
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