48.無様で醜く、ロクなもんじゃねえ
エイシェットの背に乗るか、フェンリル達に跨るか。オレが知らない間に一悶着あったらしい。最終的に行きはエイシェット、帰りは双子のどちらかと決定がなされていた。おい、オレは聞いてないぞ。
文句を言いながらもエイシェットの背に乗る。慣れた様子で皮紐を咥えるドラゴンというのも、どうだろう。オレの為なのは間違いない。感謝を込めて銀鱗を撫でたら、嬉しそうに鳴いて飛び立った。周囲の木を大きくしならせ、巨体が空を飛ぶ。
地上から追う部隊は日が昇ってから出立する。それまでに侵入経路を用意するのが、今回の役割だった。地上を侵略した形は必要だが、方法は何でもいいのだ。魔族の危険を減らすため、徹底的に潰した後に到着してもらう方がありがたかった。
きらりと朝日を弾く王城の屋根は青い。ここからは短期決戦だった。あまり時間をかけると、危機感を募らせた周辺国の介入が始まる。挟み撃ちにされでもしたら、こっちに被害者が出る。
オレ達が蹂躙した村と町を抜け、街道沿いに飛んだ。関所や砦はもう機能していない。王都は丸裸だった。この状態で、昨夜壊したはずの結界もどきが揺れる。不安定なのか? 首を傾げたオレは理由に気づいた。
安定した魔力を有する魔石が停止したため、魔術師が直接魔力を流していた。人の放つ魔力は量が少なく、質も悪い。誰かが魔力不足で倒れるたびに膜が揺れた。それでも張るのは、ワイバーンの存在だ。飛竜達は朝食にありつこうと、膜に突進して侵入離脱を繰り返していた。
「あれだな、シャボン玉みたいだ」
ぐる? 何それと尋ねるエイシェットに「後で見せてやるよ」と約束した。石鹸を借りれば簡単に作れるから、魔族の子どもに広めたら喜びそうだ。虹色のシャボン玉は、女性受けも良いかもな。
真っ直ぐに飛ぶエイシェットが、ぐあっと口を開く。鋭い牙が並んだ口の中に、不思議な紋様が浮かんだ。生まれながらにブレスを使えるドラゴンは、口の中にブレス発動の紋を持っている。ブレスの威力や種類に違いがあるのは、この紋様が違う所為だった。強烈な炎のブレスを吐く銀竜は、不安定な結界もどきを砕く。
ぐるりと回って、魔術師の魔力を感知した場所へ向かう。彼女ばかりを働かせるのも悪いから、オレは収納から取り出した弓に矢をつがえた。
「風が運んで、刺さったら爆発だ」
火と水を使った水蒸気爆発を想像する。弓を目一杯引く必要はなく、方向を定めて軽く放つ。届かないはずの矢は風に運ばれ、到着した場所で火と水が反応して砦を壊した。爆音に興奮したエイシェットが、追い討ちで尻尾を叩きつける。がらがらと崩れる砦の瓦礫が、塀を崩した。
王都を守る塀の所々に設置された砦は、門を守っている。門を壊すには、砦の場所を攻撃すればいい。こんな攻略のされ方をすると思っていなかっただろう。人間同士の戦いなら、門も砦も効果的だった。だが頭上から魔族に攻撃されたら、格好の的なのだ。
「エイシェット、任せる。オレは降りるぞ」
王城の屋根を通過したタイミングで飛び降りる。ぐあああ!! 怒ったのか? いや心配してるだけか。ひらひらと手を振って笑ってやると、仕方ないとばかりに塀を壊しに行った。
彼女が王都の結界もどきを破壊したことで、ワイバーンの朝食も始まる。下降して人間を掴み、塀の外にある街道に叩きつけるのだ。動かなくなるまで繰り返し、死体になると貪りくらう。なぜか生きた獲物を食べないワイバーンは、オレの知るカラスやコンドルが近いのか。
王城から逃げ出す侍女や騎士が出始め、慌てた門兵が跳ね橋をあげる。命令に従った彼らに、城の住人達は詰め寄った。仲間同士で争いが始まる。殺して門を開ける方法を選んだ騎士が、後ろから別の兵に刺された。無様で醜い争いを見ながら、オレは青い屋根に胡座をかいた。
「ほんと、人間なんてロクなもんじゃねえ」
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