ー『下界』の未来が変わった日
街の人達にひとしきりもみくちゃに歓迎された後、龍神は転がっていた樽に腰掛けボーッとそこに住む人達や家などを眺めていた。
ボロボロの家、ろくな服を着ていない人、路地に座り込んでピクリとも動かない人。
上を見るとキラキラとした明かりが点いているのが確認出来る。
ああ……反吐が出る光景だ。
「神城龍神だったよな?」
「お兄ちゃん!」
「ん?おお、怪我の手当てしてもらったのか?チュン太、親父さんとお袋さんは大丈夫か?」
「チュン太じゃねえ!チュードルだ!……しばらく絶対安静だが命に別状はない。ありがとう、お前のお陰だ……感謝する」
「お兄ちゃん、ありがとうございました!」
チュードルと妹が頭を下げたのを見て龍神は微笑むと立ち上がった。
「気にすんな、無事で良かったよ」
「すまない、またせたな。一応他にも怪我人がいないかを確認したが大丈夫みたいだ」
チュードルやその妹と話しているとクロスが長身のサングラスをつけた奇妙な雰囲気を纏った男と共に帰ってきた。
「紹介しとく、俺達の仲間の一人のヨハンだ。ちょっと怪しい印象受けるかもしれないが頼れる奴だよ」
「神城龍神だ、よろしくな」
「……よろしく頼む、クロスが信用しているなら大丈夫なのだろうが……初めて見る顔だ。何処から来たんだ?」
ヨハンはサングラス越しに龍神を見つめると淡々とした口調で聞いてくる。
やや疑いが混じった印象であったが当然だろうなと、俺はこの街と先程の奴等の事を思い浮かべ納得した。
「応える前にちょっと確認したいんだがお前等、まだいるであろう何人かの仲間とクロスを中心にこの街の人達を守ってるって認識でいいか?」
「ああ、ここの区画を仕切っているのはクロスだ。でかくはないが俺やチュードルの他にもまだメンバーはいる」
ヨハンが淡々と龍神の質問に応えると、龍神は微笑むと納得したように頷いた。
なるほどね、この『下界』と呼ばれている場所は何ヵ所か区画によって区切られている。
恐らく広いであろう下界を仕切っている団体が他にもあるのだろう。
メンバーの人数も明かさないとなるとやっぱり警戒されてんのね。
「なあクロス、二人きりで話せるか?」
「……ああ、構わない」
「待てクロス、二人きりというのは……」
「心配すんなヨハン、龍神なら大丈夫だ」
龍神の真剣な表情を見てクロスは頷くと龍神と共に歩き出す。
リーダー格であろうクロスを心配するヨハンをチュードルが呼び止め、二人きりになる為にクロスと空き地へと向かった。
まだ全く把握していないがこの力を得てこの世界に来れて良かった。
あの世界ではどうしようも出来なかったこの理不尽な世界をここでは壊す事が出来る。
直感的に信用するならこいつだと思った、だからこいつには真実だけ話そう。
「クロス、俺が何処から来たのか知りたいんだよな?お前にだけ話すわ。信じるか信じないかはお前に任せる」
「…………分かったよ」
龍神の言葉にクロスは真剣な表情で頷き、それを見た龍神は再び口を開く。
「俺はこの世界とは違う異世界から来た」
龍神が言葉を発するとクロスは少し驚いた表情を浮かべたが、そんな表情は直ぐに消え去り口元に手をやり納得したように頷いた。
「なるほど……あの時あがった光の柱といい、お前のあの力もそれなら納得がいく」
「……えらく簡単に信じるのな」
「簡単にじゃないよ。まずこの状況でそんな嘘をつく意味はないし、お前のさっきの力を見たら流石に信じる。だけどこの話しは俺だけにしとけよ?」
そうクロスが忠告してきたのを聞くと龍神は微笑み、それを見てクロスも微笑むと近くの段差に腰掛けた。
「それで?これからどうするんだ?行くところがないなら何処か住む所探してやるけど、いやお前ならここにいなくても実力を見せれば王都で騎士になるなり冒険者として有名パーティーに入る事も出来るだろ」
「いや、そういう騎士とか冒険者とかどうでもいい。やりたい事見つけちまったから……住む所探してくれるか?」
龍神が言葉を発するとクロスは少し戸惑い気味に口を開く。
「……やりたい事?」
「ああ、クロス。俺この『下界』とか呼ばれてる街、一から作り替える事にした。
ここからこの世界のどうしようもねえ状況を全部まとめてぶっ壊す」
龍神が笑いながらそう言ったのをクロスは長い間見つめた。
呆気にとられていたが、何か眩しいものを見るかのような表情を浮かべるとクロスは笑った。
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