ー 地獄からやってきた


「チュ、チュードルー!!!」


「チュードル先輩ー!!!」



「あ……すまん、まだ強かったみたいだ……急いで病院連れて行ってやって」


周りの男達は叫びながらチュードルが吹き飛んで行った方向へと走り出す。


龍信は顔をひきつらせながら走り出す男達に声をかけると、クロスが龍信の目の前まで歩み寄ってくる。



「てめえ!チュードル先輩をよくも!」



「おい、突っ掛かったのはこっちからだ。チュードルの奴を急いで先生の所連れてけ、ここは俺が話す」



「先生ってあそこ動物病院ですからね?!まあ、あそこしかないんですけど」



クロスに命じられてチュードルの元に走って行く若者、それを見送りながら龍信は苦笑いを浮かべる。



「動物病院て……普通の病院ねえのかよ」



「まあな、この下界に病院なんて大層なもんはない。さっきはすまなかった。俺はクロスよろしく頼む、歳上……だったか?敬語使った方がいいか?」


手を差し出してくるクロスを見て龍信は笑みを浮かべると握手した。



「気にすんな、外見は15か6に戻ってるみたいだしため語でいいよ。俺は神城龍信、龍信でいいぞ」


龍信の言葉を聞いてクロスは笑みを浮かべるとチュードルが吹き飛ばされ破壊された民家を眺めた。



「にしても、凄まじいな。どんな魔法だよ?そこまで器用に魔力消せるなんて余程の実力者だ……どこから来た?」


その瞬間、クロスの鋭い視線が龍信な向けられる。


恐らく先程チュン太がスパイだの何だの言ってたのから考えると、魔力を上手く隠した上でここに潜り込んだかなりの凄腕魔術師と勘違いされている。


よし分かった、こういう時は真実ゴリ押しが一番だ。



「言っておくが俺は魔法なんてもんは知らん、魔力を消せるとか言ってたが多分そんなものはない」


そこまで言って龍信はお母さん指で瓦礫をデコピンすると瓦礫が吹き飛んでしまった。



「マジかよお前……そんな人間が存在してて……」



「ああそれと、何処からきたかだっけ?それは……」



驚愕の表情で龍信を見つめるクロス、龍信が言葉を開こうとした時街の中心の方から人々の悲鳴が聞こえてきた。



『キャアアアアア!!』


『お願いします騎士様!止めて下さい!』


『お許し下さい!何卒っ!あああ!!』



「あ?……何だ?」



「……クソッ!!!!」



悲鳴だけでなく煙まで上がり始めたのを見てクロスは一直線に悲鳴の場所まで走り出してしまった。



悲鳴はまだ聞こえる、周りを見るとろくな生活をしていなさそうな人々が不安そうに煙が上がっている場所を見つめていた。




「どうした!何があった!」



「あ、クロス!上の奴が遠征から帰ってきたんだ!それで子供に通路を開けるよう誘導してたおっちゃんとおばちゃんが急に切られて!」



「そんな怪我で無理っすよチュードル先輩!!」



「うるせえ退け!!」



街の中心には人だかりが出来ており、鎧に身を包んだ騎士の軍団が周りを固めていた。


そして白馬に乗った隊長らしき騎士が血のついた剣を振った。



「お母さん!!お父さん!!ああぁぁん!!」



「ユリ……ユリ!!!!親父にお袋!!」



血だらけで倒れている男女に大泣きして抱きついている少女、チュードルは目を開くと突進していくが周りを固めている騎士に取り押さえられた。



「離せ!!てめえら!親父達やユリが何したってんだ!!」


取り押さえられたチュードルが怒鳴ると馬に乗った隊長らしき人物は馬から折り少女へと近付いていく。



「下民が……この下民共が我々の道を塞いだのだよ!生きてる価値もないゴミ共が……」



「ぁっ?!痛っ!いだい!やめてっ!いだいっ」


男は泣いている少女に近づくと頭を思い切り踏みつけ地面に打ち付け始めた。

何度も何度も頭を踏みつけ、それを見たチュードルやクロス達も怒りの形相で走り出した時であった。



巨大なコンクリートの塊が少女の頭を踏みつけていた男の真横に飛んでくると粉々に砕け、男は驚きの表情で動きを止めた。



「おいおい……いい大人がこんな小さな女の子の頭がすがす踏んでマウントとってんじゃねえよ……三下が」



「…………おい、貴様自分が何をしたか分かっているのか?ベルモンド家の当主である私に逆らったらこの街に住んでいたらどうなるか知らん訳ではあるまい?

いや……その奇妙な格好……貴様何処のものだ?」



ベルモンドとかいう腐れ中年貴族が龍信の格好を見て目を細めると、龍信はニヤリと笑った。



「さあな……地獄からやってきたんだよ」




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