ーお母さん指は凶器となる
ーーー人族、エルフ族、魔族、龍族、魔物など挙げていけばキリがないがマナで満ちた魔法世界『ヴェルザード』。
そんな世界の巨大都市『ルナ』、多くの人で賑わっており学園に向かう学生の姿や騎士の姿なども確認出来る街が舞台。ではなく、この都市の下に広がっている人が住むには厳しいボロボロのスラム街に光の柱が昇った。
このスラム街は通称『下界』、上に住む貴族などが蔑みつけた名前。
そこで暮らす人々は突如昇った光の柱を見つめた。
「おいクロス!!見たか?さっきの光!」
「落ち着けチュードル、とりあえず人数集めろ。今から確認に向かう」
「分かった!!」
クロスと呼ばれる赤髪の青年は口元に切り傷が残る強面の男に指示すると、光の柱が昇った場所を見つめては歩き出す。
一方、光の柱の昇った場所には案の定龍信が盛大に倒れていた。
下界の住民は遠目からぶっ倒れている龍信を眺めていたが、突如龍信がむくりと起き上がったのを見ると物陰に隠れてしまった。
「…………んー、マジかぁ……ガチで異世界かぁ」
「おい、お前か?さっきの光の柱の原因は」
頭を抱えてしまっていると男の声が聞こえ、顔を上げると先程の青年クロスが六人程男達を引き連れ歩いてきていた。
長身に耳にかかる程のサラサラの赤髪、うんカッコいい。思わず見とれちゃう、だからこそちょっと分からせるわ。
龍信はポケットから煙草を取り出し火をつけると(どうやら現代で持ってた物は持ってきてるようだ)煙を吐き出し立ち上がる。
「おいコラ糞ガキ共、見た所15,6って所だろうが?年上に対する敬意がねえな」
「…………お前年いくつなんだ?」
「あ?見りゃ大体分かるだろ!36じゃあ!」
俺が怒鳴ると何故かその場がシーンとなってしまう。え?何か変な事言った?
「おめえよ……もうちょいマシな嘘つけよ?どう見ても俺等と変わらないだろ」
先程チュードルと呼ばれていた強面の青年から言われ、龍信は割れた鏡を見つめ覗き込み驚愕した。
若くなってる……若くなってる。
「若くなってるー!!!身体が若々しい!!」
嬉しくなってはしゃいで壁に身体をぶつけてしまった時龍信はある事に気付いてしまった。
コンクリが軽くぶつけただけで砕けてしまった。飛び跳ねた地面にヒビが入っている。
何だこれ?お菓子か何かで出来てるの?
そう思いコンクリートの一部をつまんでみると簡単に崩れ指でボロボロにする事が出来てしまった。
この瞬間、あの糞神と機械の言葉が脳裏に甦る。
『剣と魔法の世界だよ?!』
『本当にこれでよろしいですか?』
「え?ちょっと待って……これ俺もしかしてやらかした?これって……まさか魔法使えないんじゃ……」
「俺はこの下界をしきってる幹部の一人チュードルってもんだ。
おめえさっきから何ぶつぶつ言ってんだ?!とりあえず話しを聞かせてもらうから来い!糞雑魚!」
チュードルの怒鳴り声を聞くと、龍信の肩がピクリと動きチュードルを見つめた。
「な、なあ……何で糞雑魚って思うんだ?お前等には何が見えてんだ?」
「こんな魔力の欠片も感じねえ人間初めてみたぞ、小学生でもお前以上はあるわい!上からの捨て駒のスパイか?大人しくついてこい、抵抗するなら半殺しにして」
「そっか……やらかしたか……。まあいっか、これはこれでヤバそうだし」
「お前何をぶつぶつ言って……」
「お母さん指だ、死なせたら困るからお母さん指で相手してやるチュン太」
煙草の煙を吐き出しながら龍信がいうとチュードルもといチュン太の顔がみるみる怒りで赤くなっていく。
「おいクロス、止めないとあの男ヤバいんじゃ」
「いや待て、確かに魔力も何も感じないんだが……確かめてみたいんだ」
「誰がチュン太じゃこらああああ!!!!」
「………………」
殴りかかってきたチュン太の拳を見て俺は確信してしまった、まず無茶苦茶遅い。
そして、お母さん指といえど軽く弾かないとこいつ死んでしまうと。
お母さん指で胸を弾かれたチュン太は白目を向いて住居を破壊しながら吹き飛んで消えてしまった。
驚きの表情でこちらを見てくるクロス達、確信した。この剣と魔法が主な世界で俺は一番上のステータス、身体強化のみに極振りして異世界に来てしまったのだと。
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