カボチャの種を蒔きました。
貴音真
迦墓地屋の種
「殺して……早く殺して……もう嫌……こんな姿で生きていたくない……お願い……私を殺して……」
十日前───
コンコンコンコン…
ノックの音で目が覚めた。
どうやら誰かが来たらしい。
酷く頭が痛い…記憶はないが、どうやら昨日の俺は飲み過ぎた様だ。
コンコンコンコン…
また誰かが玄関のドアをノックしている。
正直言って出たくない。
折角頭痛もその他の痛みも感じない睡眠という安息の地に逃げ込んでいたのに、それを邪魔する奴の顔なんて見たくない。
コンコンコンコン…
「すみまセン…お届け物デス……」
ノックをしているのは宅配業者らしい。
そうと決まれば出なくても構わないだろう。
宅配業者なんてものは放っておけばすぐに諦めて帰るものだ。
コンコンコンコン…
コンコンコンコンコン…
コンコンコンコンコンコン…
コンコンコンコンコンコンコン…
コンコンコンコンコンコンコンコン…
うるさい。
なぜかわからないが全く帰ろうとしない。
それどころかノックをする回数が増えていっている。
このままでは完全に目が覚めてしまう。
「くそ…」
思わず呟いていた。
呟きながらその辺にある上着を一枚羽織って宅配業者を帰すためにドアを開けた。
「お届け物デス…それでは失礼しマス……」
宅配業者はそう言って荷物を玄関に置き、いそいそと帰っていった。
その態度に少し腹が立ったが、そんなことよりも眠りたかった。
俺はドアを閉めて再び睡眠という逃げ場を求めて布団に入ろうとしたが、なぜかわからないが荷物の中身が無償に気になっていた。
その荷物には宛名も宛先も書かれていなかった。
宛名も宛先すらもない段ボール箱に赤い色で『迦墓地屋』とだけ書かれた紙が貼り付けられていた。
その文字はまるで定規を使って書いたかのように直線的で無機質だった。
「かぼちや?」
迦墓地屋…
そんな名前の店は聞いたこともなければ、何かを注文した覚えもない。
そもそも宛名も宛先すらもないのに俺の元へ届いたのはなぜなのか?
疑問はいくらでもあった。
しかし、そんなことよりも中身が気になった。
ビリビリビリビリ…
四角い段ボール箱に対して対角線に貼ってあった赤いガムテープを剥がして箱を開けた。
中からは植物の種子のような物が出てきた。
それは恐らくカボチャの種だった
ただ、普通のカボチャの種とは明らかに違っていた。
その種は赤かった。
まるで鮮血の様な赤色だった。
「蒔こう…」
なぜかそう呟いていた。
そして、俺はその種を蒔いた。
一日後、その種から目が出た。
目は一つだった。
二日後、目は順調に育っていた。
目が二つになり、筋が出来てきた。
三日後、鼻が出来た。
目と鼻に見覚えがあった。
四日後、額と頬と上唇が出来た。
頬に触れると微かに温もりがあった。
五日後、頭皮と唇が出来た。
唇に懐かしさを感じ、くちづけをした。
六日後、顎が出来て髪の毛が生えた。
髪の毛はまだ短かった。
七日後、髪の毛が伸びて耳の穴が出来た。
声をかけると瞼が動いた。
八日後、髪の毛が伸び切って耳が出来た。
髪の毛を撫でながら耳元で囁くと唇が何かを呟こうとした気がした。
九日後、頭が完成した。
瞼が開いて俺を見た。
唇が動いて俺を呼んだ。
耳が捉えた声に反応して俺と会話をした。
───十日目。
「殺して……早く殺して……もう嫌……こんな姿で生きていたくない……お願い……私を殺して……」
彼女の頭が俺に呼び掛けている。
聞こえぬふりをしてじっと彼女を見つめた。
彼女は生き返った。
はらわたをぶちまけ、脳髄を撒き散らして死んだ彼女は今、俺の目の前にいる。
彼女の頭は彼女の亡骸の胸部からしっかりと生えている。
迦墓地屋から届いた種を蒔くと彼女の頭が生えてきた。
頭が潰れていても、はらわたをぶちまけていても、彼女の頭は彼女の胸にある。
彼女は話が出来る。
俺と会話をしている。
次こそは枯らさないように心掛けよう。
これからが楽しみだ。
カボチャの種を蒔きました。 貴音真 @ukas-uyK_noemuY
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