「悪い子はいねぇかぁ」
彩理
第1話 日本海で愚痴をこぼす
雨 杜和orアメたぬき様企画参加
『第2回都道府県オープン参加小説2:宇宙人侵略その後、各都道府県はどうなっている。』
https://kakuyomu.jp/works/16816452219500906547
*
ゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人はあきたこまちに載って秋田市に到着した。
新幹線ホームにはこの世のものとは思えない赤と青の生き物が睨みをきかせていた。もしかして皇帝より怖い顔をしているかも。それなのに人間たちが楽しそうに記念撮影していた。
なんて恐ろしい生き物がいるんだろう。どうやらこれは
なまはげの横を真っ青な顔でゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人は足早に通り過ぎた。
思えば、この時から秋田は宇宙人にとって鬼門だったのかもしれない。
目指すは県庁である。
侵略9日目ともなれば、人間に見えるように変装も完璧で、移動も権力者へのアポもお手の物である。
「ただいま、知事は秋田放送の修学旅行の無事報告に参加しているのでもう少しお待ちください」
「修学旅行の無事報告?」
ある程度の日本語は習得したはずだったが、無事報告とは何だろう?
部長の小田が秋田では修学旅行先の行動をテレビで報告してくれると教えてくれた。応接室のテレビをつけると「今、○○中学校は京都嵐山で昼食をとっています」とアナウンサーが解説し、子供たちが楽しそうに食事をする風景が映し出される。
なるほど。こんな習慣は他の県ではなかったな。とゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人は感心した。そして、リサーチが足りなかったと反省する。
残念なことにここには侵略者である宇宙人にそれよりももっと大事なことをリサーチし忘れているぞ、と突っ込む宇宙防衛軍はいなかった。
「率直に言って秋田県の独立にわれわれゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人は全力で協力します」
甘い言葉を並べ知事をはじめ部長たちを洗脳していく。
ふふふ、我々の言葉に逆らえるものはいない。
「それは素晴らしい。ぜひ秋田県の独立にお力をお貸しいただきたい」
知事はご機嫌で宇宙人の手をブンブン振って握手した。
「だが、それには私の一存では決められない。根回しをきちんとしなければ反発が大きいからね。どうだろう、ここはひとつ食事をしながら皆の了承を取ってもらえないだろうか」
ゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人はご機嫌な知事の様子に、これはちょろいなと思いながら皆の了承を取ることを約束した。
*
「さあ、遠慮しないでもう一杯」
そう言って漁協組合長の恩田はどんぶりになみなみと日本酒を注いだ。かれこれ4杯目である。
自慢の酒、飛良泉。スッとしたのど越しに香り豊かな味わいでいくらでも飲める。
きりたんぽ鍋には名物の比内地鶏を振る舞う。恩田はごちゃごちゃ入れずに、シンプルにごぼうのささがきだけたっぷり入れて食べるのが好きだった。
もちろんしめは冷たい稲庭うどんである。
これを食べずして、会談などあり得ない。
恩田がほろ酔い気分で「じゃあ、話はわかったから」といった頃には宇宙人たちは起き上がることができなかった。
しかし、悪夢は続く。
農協のお偉いさん。温泉組合。商業連合。なぜか花火組合のお偉いさんまで飲み会が用意され。挨拶が終わらないことには知事は協力できないと言った。
「秋田では大切なことは飲んでないと決められない」
本当かウソかわからないその言葉にしたがい、宇宙人たちは飲み続けた。
そして……。
「秋田は無理だ」
そう結論が出たのは3日目の昼だった。
帰り際、ゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人は日本海で涙する。
こうして秋田の平和は守られた。
「悪い子はいねぇかぁ」 彩理 @Tukimiusagi
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