【茶話】壱 鏡合わせの二人
やれやれだ。
俺にそっくりなコイツは
見た目が同じだからといって、何もかも同じとは限らない。そもそも見かけなんてアテにならないことも多いし、そんなものだけで判断するのは如何なものか。
巫儀はやかんを傾けて湯呑に白湯を注ぎ、こくこくと飲み干した。少し厚みのある
「その『ハーフ&ハーフ』って面白そうだね」
水に浸しておいた米が入った羽釜を抱え上げると、
コイツは俺と違って本当によく喋る奴で、羅土は俺たちのことを阿吽のようだと形容する。言いたいことは解らなくもないが、俺達はあんなに怖い顔ではないはずだ。どちらかと言うと……まあいい。そういったことは想像に任せるのが一番だ。
「無二ったら、ここ最近楽しそうだよね。ぼくたちはカラスだし、いつだって夜明け前から起き出すけれど、無二は毎週末に向けて早寝までするようになったじゃない。ぼくだって早起きしてるのに、目が覚めるといつも部屋に居ないんだもの」
これはBGMみたいなものだ。巫儀を適当に喋らせておいて竈に羽釜を乗せた。竈の前で屈んでその暗がりを覗き込み、「
いつものように、すぐに奥から数匹の
他より少しだけ大きな鼠が、器用に二足で身体を持ち上げ背筋を伸ばした。
「飯を炊く。それから七輪の炭も頼む」
黒々としたつぶらな瞳を見つめながら声を掛けると、へい、と言ったわけではないが、
棚から取った硝子瓶のコルク栓を開け、手のひらに流し出した向日葵の種をその鼻先に差し出した。こいつらはうちの竈の一切を取り仕切る
煙火に続き、他の小鼠たちも次々に向日葵の種を頬張った。
「それでね無二、こないだ大雨があったじゃない。ああやって濁流が過ぎた後って、いろいろと掘り返されて、埋もれていた石が表に出てきたりするから面白いよね。
巫儀は塩を振った天魚を串に刺している。俺は薪と炭を竈の中に入れた。炭は取り出しやすいように手前に置く。
煙火たち
煙火たちにとっては外敵に晒されにくい環境で食べ物が手に入り、俺達にとっては火の面倒をみる作業を肩代わりしてもらえる。一種の共生関係みたいなものだ。
「やっぱさ、うみたて卵はたまごかけご飯で食べるのが一番だよね。今日は柚子胡椒とネギを乗せようかな。だし醤油を垂らした後に白ごまもパラッとかけて」
煙火たちが火を点けた炭を取り出して七輪に移した。網の上に巫儀が持ってきた串刺しの
「
煙火たちは竈の中に組まれた薪の周りをグルグルと走り回っている。コンパクトなキャンプファイヤーの周りで、踊り狂っているとでも言えばいいだろうか。走る速度の緩急で巻き起こる風量を調節し、火加減をコントロールしているらしい。
「さてと、ちょっと緑茶でも淹れようかな。濃いめで。無二も飲むだろうし」
天魚の様子をみて串を回した。なすすべもなく、半身を炙られた魚が半回転する。
「ねえ無二、聞いてる?」
「…………聞いてる」
七輪の炭がパチリと爆ぜた。
-------鳥の知らせ-------
銀河の何処かにいると噂される『人間』という生き物は、卵殻表面のサルモネラ菌などに感染するらしく、彼らの社会では殺菌処理を経たものが、生食用として流通しているそうだ。注意されたし。
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