終末case1 あたしと仕事、どっちが大事なの?
終末の朝、いつもより早起きした
いよいよ、第一回目の演題が提示されるのだ。
無二は無表情で何を考えているのか読み取りにくい奴だけれど、この日が待ち遠しかったであろうことは一目瞭然である。自分たちの仕事の流儀に則り、電光石火で終わりに導いてやるという気概が見られた。
無二は滑らかな動きでETを撫で、ニュースアプリ『銀河』を立ち上げて、
「さてと、今終末のお題は……」
【演題1 あたしと仕事、どっちが大事なの?】
(お題提供主:関川二尋さん)
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ボクは人生の分かれ道に立っていた。右に曲がれば会社への道、左に曲がれば彼女の自宅。
「ねぇ、関川君、ここでハッキリさせて。あたしと仕事、どっちが大事なのよ?」
また無茶な二択……答えはどっちも大事に決まってる。ちなみに真ん中にあるのはただの塀、行き止まりだ。時として女性は残酷な二択を突き付けてくる。
「もちろんキミに決まってるさ、でもね……」
「でも、はナシ。よく考えて答えてよね、返答次第じゃあたしにも考えがあるから」
ボクが働くのはキミのためでもあるんだよ、という答えは門前払いらしい。彼女は腕組みして僕の答えを待っている。二の腕を指先でトントンしながら待っている。
「さぁ、関川君。仕事とあたし、どっちを選ぶの?」
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天使のお告げを読み終えた無二は、きっかり十秒間固まった。
「なんだ……この絶望的な終末感は……」
無二は眉を潜めて、あたりを見回した。一旦ETを懐にしまい、竹ザルに米を掬って冷たい水で研ぎながら考えを巡らせた。
「一体どうしろっていうんだ……俺ならどうするか…………いや、
そうこうするうちに研ぎ終わり、米を水に浸した。無二は諦めたようにETを取り出し、ホーム画面の紙と万年筆が描かれたアイコンをタッチした。『手帳』は文書や絵図を自由に書けるノートアプリである。
「仕方ない。俺は合理主義だから、
無二は早速、『手帳』に下書きを始めた。
-----------【続き】-----------
ボクは彼女の部屋に着くなり、そっとその白い首すじに触れた。温かく滑らかな皮膚。彼女がふっとほほえんだ。もちろんボクも笑顔を返す。そして彼女を抱き寄せ、首のうしろ、その付け根にそっと触れた。身体をボクにあずけた彼女を抱いてベッドに移動する。
割れ物を扱うように寝かせて頬に触れた。先ほどの柔らかい笑みのまま眠っている。ボクの彼女はもう二度と動かない。ボクは行かなくちゃ。最期にキミに触れることができてよかった。キミは世界の一部ではなく、ボクの一部だったから。
この世界を終わらせる。それが会社からの司令だった。
「行ってきます」
またいつか。キミのぬくもりが絶えるまえに、終わらせてみせるから。
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「こんなところか。ま、こういった終末もあっていいだろう。彼の女が実はアンドロイドのような存在だったのか、関川君が急所を突いて永久に眠らせたのかは、好きに解釈すればいい。もちろん『世界』が何を指しているのかさえも」
無二はETの『手帳』に書いた終末の物語を、指先で『銀河』の彼方に送信した。
「いずれにせよ、世界の一部としてではなく、一人の君として終わらせた。それが関川君の……それはそうと、関川君とは誰なんだろうな……まあいいか。俺の知ったことじゃない」
こうして関川君の『世界』は終わりを迎え、無二は朝餉の準備に取りかかった。
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