僕の落し物
「あの、これ落としましたよ。」
そこには制服姿の女の子が立っていた。
僕は何も発する事無くぺこりと一礼して彼女の拾ってくれた本を受け取った。
彼女は僕が本を受け取ると少し隣で教材を見ていた。
僕は異性から落し物を拾ってもらった事にドキドキしていたが、何事もなく、また本を見る。
別にドキドキしていたのは恋ではなく、苦手うえの発作みたいなものだ。
少しすると隣から教材の落ちる音が聞こえた。
瞬間的にそっちに目を向けると彼女もまた、何事も無かったように教材を拾い上げる。
綺麗な顔立ちだな。
いやいや、僕は咄嗟に何を考えているんだ。と意味のわからない否定をする。
でも目が離せ無かった。
目が離せなかった理由は、恋に落ちた訳でもその子の容姿がタイプだったからでもない。
凄く寂しそうで失望しているような目をしていたからだった。
「この本、おすすめなんだけど、どう?」
気が付いたら彼女に話しかけていた。
は?どう?じゃないよ、どう?じゃ!!
やばい、何してんだ僕。
彼女は急に話しかけられてビックリしている。
「ふふ、穂乃果(ほのか)くんって喋れたんだ。」
口を手で隠しながら可愛らしく笑っている。
「え…?」
なんでこの子僕の名前を知っているんだ?
「え??あれ、穂乃果くんじゃなかったっけ、ごめん私名前覚えるの苦手なんだ」
「いや、穂乃果くんですけど…」
「自分でくん付って」
さっきよりもケラケラと笑う彼女。
もっと困惑する僕。
そんな僕の様子を見て悟ったのか彼女が言う
「え、もしかして私の名前分からない?」
「分かんない…ですね」
「嘘でしょ、穂乃果くん本当に面白いね」
何が面白いのか知らないけど、あの悲愴感溢れてた彼女はどこ行ったんだよ。
ひたすらに声をかけた自分を悔やむ。
「同じクラスの伊藤 遥(いとう はるか)だよ」
友達もいなければクラスで基本ぼっちな僕に分かるわけないじゃないか、と心の中で言い返す。
「ちょっと、分からない。」
「面白すぎるね、穂乃果くん」
「いや、何が面白いのかも分からない。」
とにかくもう、話を終わらせたかった。
「じゃあもう僕今日家帰らないとだから。」
「あ、そうなの?じゃあまた話そうね。」
咄嗟に付いた嘘だったが彼女はあっさりと信じたみたいだった。
そして僕的にはもう伊藤…名前は忘れたけど伊藤さんとは話したくない。
彼女に背を向けて、いち早く帰ろうとしたその時。
「あ!待って!!」
彼女が僕の鞄を掴んで止めてきた。
「わっ」
掴んで止められた事に驚いたのではなく、鞄だったにしろ異性に触れられた不愉快さに声を上げてしまった。
「あ、ごめん、鞄。」
嫌がった素振りに気付いたのか少し申し訳なさそうに彼女が言う。
「いや、いいけど…何?」
少し申し訳なくなってしまった。
「千花(ちか)達にはここで教材見てたことは言わないで欲しい。」
言う理由がないし、まず僕には千花さんが分からない。
「分かったよ。」
その場から離れたい欲に駆られて、そう伝えたあとはさっさと店を出た。
ぼっちな僕とひとりぼっちの君 宮島 弓 @Yumi_miyashima
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