第2話

 つい最近改築が終わったという市役所の外観は、都内のオフィスビルの如く、エレベーターと中にコンビニが入っており、その外観に源治は国民の血税をこんなことに使う事への憤りを感じ、このビルの責任者に殴りかかり文句を言いたい気持ちを抑えながら窓口へと足を進める。


 市役所は平日の午後、事務手続きをする人間はそれほどおらずに閑散としている。


「あのう……」


「どうなさいましたか?」


 源治に話しかけた受付窓口の男は、ホームレス当然の格好をした源治を快く思っていない顔をしたがそれをすぐさま隠す。


「生活困窮者自立支援の窓口はどちらでしょうか?」


「あぁ、それならばこちらですよ」


 窓口の男は20代前半、学校を出てすぐに就職を決めたであろうと源治は想像をして、案内された窓口へと足を進める。


 生活困窮者自立支援窓口は、やはり平日の午後で閑散としているのか、それとも、源治とは違い、皆仕事に恵まれて普通の生活をしているのか、待ち人数がいない。


「本日はどうなさいましたか?」


 栗林、というネームプレートが掲げられたその50代前半の男は銀縁眼鏡をかけてやや痩せており、源治のような若い人間がここにきた事を驚いている様子である。


「えーと、私は会社が倒産しまして、半年ぐらいネットカフェ難民をしてましたが食い潰しまして、ネットでこの制度を知りまして、ここに来ました」


「そうですか、現在の収入はおありでしょうか?」


「それが……派遣会社から解雇を言い渡されまして、手持ちのお金は500円ぐらいしかありません」


「そうですか、生活困窮者向けの住宅はあるのですが、それは収入がないと入れないのですよ、詳しいお話は、あちらの部屋でお伺い致します」


 栗林は、奥の方の部屋を指差す。


(収入がねえと入れねぇだと!?冗談じゃねぇ!この国ってのは、仕事が見つからない弱者に何故トコトンキツくあたるんだ!?こいつら人間じゃねぇ、人様の血税でのうのうと暮らしている屑だ!放火してえ!刑務所に入った方が楽に暮らせそうだ!)


 源治は栗林にそう言いたい気持ちを抑えながら、栗林とともに奥の部屋へと足を進める。


 ☆

 栗林とのアセスメント面談は、殴り飛ばしたくなる衝動を抑えつつ終わり、当面の生活は用意した簡易宿泊施設で一週間寝泊りをしてその間に当面の仕事を探して収入を得てから、住宅の援助を受けることになる。


 ここ一週間が源治にとっては勝負の日、幸い町には派遣会社が何社かあり、アルバイト先はある。


 近場の図書館のパソコンで就職の志望動機を調べて500円で履歴書を書い、残っている証明写真を使いながら、履歴書不要のアルバイトや派遣を探す。


 治験ボランティアへの応募を行なった、新薬の実験では何かあっても責任はとらない、薬の副作用で手足を切断した人はいるのだが、体を失う恐怖よりも、生活が送れなくなる恐怖が勝った。


 簡易宿泊施設でのベットの上、栗林からとりあえず支給された食費と生活費一万円で暮らすのだがこの金には極力手をつけない。


(必ず俺は這い上がるんだ、絶対俺は人並みの生活を手に入れるんだ!)


 源治は心にそう誓い、疲れがどっと出たのか、薄い布団と毛布にくるまり、強烈な眠気に体を委ねながら、夢の世界へと入り込んで行った。


 ¥

 ゴミだらけの部屋の中、一人の小さな子供が全裸で小動物用の檻に入れられている。


 目の前には、茶髪で、年は30代ぐらいの女性がテレビを見ている。


「あぁ、そろそろ、薬の時間だったわね」


 その女は、紙袋の中から錠剤を取り出す。


「強くなれる薬だからね……」


 女は子供にそう言い聞かせて、ペットボトルと一緒に薬を子供の前に差し出す。


 ¥


「はっ」


 大量の汗とともに、源治は目が覚めた。



(また、あの変な夢か……)


 強烈なストレスに晒されると、必ず見る夢。


 源治はその子供や女性には見覚えはなかったが、その夢を見るたびにある種の恐怖に襲われる。


 まるで、昔自分が体験していたかのようなーー


(そんな事はどうでもいい、これから、アルバイトの面接だ……)


 インターネットで見つけた、最低賃金に少し毛が入った程度のゴミ処理場のアルバイト。


 保証人は不要だというそのアルバイトに源治はブラックでもこの際どうでも良いという半ば投げやりな気持ちで応募をした。


 服装を気を使い、前の晩に洗い、体も綺麗に洗った、やはり人間は第一印象が外見でほとんど決まってしまうためである。


(絶対に受かってやるぞ……!)


 源治はボサボサの髪の毛を水でオールバックにして、立ち上がり部屋を出る。


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希望の街ー改訂版 @zero52

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