チートを手にした僕が今までバカにされてきた連中に復讐した結果

小鳥頼人

チートを手にした僕が今までバカにされてきた連中に復讐した結果

 僕、小林幸太こばやしこうたは高校一年生。

 属性は陰キャ、デブ、不細工、いじめられっ子。学業成績だけは優秀。

 学校の休み時間はいつも一人でソシャゲーを無課金でプレイするかWEB小説を読み、休日は一日中自室にこもってテレビゲームとネットサーフィン三昧の生活を送っている。

 当然友達は一人もいない。授業でペアを組む時は常にあぶれる。あれは地獄だ。

 だけど誰も僕に話しかけてこないわけではなく――


「おい小林ィ。今日も購買で焼きそばパン買ってこいよ。金は後払いで」


 昼休みになった瞬間、僕の自席周りに数名の男子生徒がハエのように群がってきた。


「あ、あ、あの」

「デブでも購買の距離くらいは歩けるだろ?」

「俺の分もヨロー」

「俺も俺も」


 な、なんで僕が四人分の焼きそばパンを買ってこなきゃいけないんだよ。


「い、い、いやその……」


 ――と本人たちを前に直接言えるはずもなく。


「あん? まさか、行かないとか言い出すんじゃねーだろうな?」

「え、えっと……」


 僕には行く以外の選択肢は用意されていない。それは分かってる。


「お前生意気だな――――うりゃっ」

「いたっ」


 いじめっ子は僕の腹を蹴ってきた。誰も行かないなんて一言も言ってないじゃん!


「どうせ脂肪がクッションになって痛くねえだろ?」


 いえ、普通に痛いんですけど。

 思いっきり蹴り入れられたら痛いに決まってますけど。

 ご覧のスペックのせいで、学校ではいつもクラスのイキリカスどもからいじめを受けている。男女問わず。全員心臓発作で死ねばいいのに。デ●ノート落ちてないかなぁ。


「いいから売り切れる前に行ってこいよ」

「わ、わわっ」


 僕は連中から強引に教室から押し出された。

 結局、僕になんら得のないパシリをさせられる羽目になってしまった。

 これが僕の日常。


「小林の奴、購買行っただけで息切れしてるし」

「汗もやべーな、あの豚野郎」


 パシリを終えて自席に座るとクラスの女子たちからも心ない陰口を言われた。せめて、聞こえないところで話してくれないかな。

 ……くそっ、クソな日常だよ。いやダジャレじゃないよ。

 そうだ。こんな時は小説投稿サイトでチート系小説を読むに限る。感情移入して僕が主人公だと思い込んで現実逃避するんだ。

 僕は昼休みの時間を使ってひたすらWEB小説を読んだ。


 帰宅後も引き続き俺TUEEE系作品を読み漁った。

 でも、いくら小説を読んだところで僕にチート能力がつくわけでもなく。

 明日になれば、また不愉快な連中から不愉快な目に遭わなければならない。

 そんな日常、嫌に決まってる。


(神様、どうか僕にもチート能力をさずけてください)


 僕が神様に願うと――――


 ――――ピカッ!


「な、なに……?」


 一瞬、部屋全体が光った気がした。

 電球は元気だし雷が鳴ってるわけでもない。そもそも夜空には雲一つなかった。

 少々不気味に感じたものの、僕は宿題を済ませて日が変わる前に床に就いた。


    ▽


 翌日。


「おうおう、クソデブ」

「な、な、なんで、すか……」


 学校まで登校していると、いかつい身なりの男に絡まれた。金髪長髪の見るからに荒ぶってるステレオタイプの輩だ。


「昨晩ギャンブル失敗してイラついてんだわー。ちょっくらサンドバッグになってくんない?」

「え、え?」


 男は呆気あっけに取られている僕の腕を掴んできた。

 朝っぱらからなぜこんな目に……僕が一体何をしたって言うんだよ。


「は、はは、離して、ください……!」


 男の拳が僕の顔面に迫ってきたので僕は奴の腕を掴み返して振り払うと――


「うおわっ!?」


 男はいとも簡単に数メートル先まで吹っ飛んだ。


「……え? え?」


 男はもちろんだけど、投げた僕自身も唖然あぜんとなった。


「な、なんだオメー? めっちゃ腕力あんじゃねーか。こわこわ」


 僕から豪快にぶん投げられた男はそそくさと逃げていった。

 ……どういうこと? あいつが弱すぎた? それとも、僕が思いの外強い……?

 これは――試してみたくなってきたな。


 学校に到着。


「小林ィ。お前の席ねーから」

「は、は、はぁ」


 登校すると、僕の席の周りにはいじめっ子グループがたむろしていた。たまにこういう時があって迷惑なんだよね。

 僕の席もバッチリ座られていて、僕は自席の前で立つしかない。


「なんだ? どいてほしいのか?」

「あ、あ……」

「なら、力づくでどかしてみろよ? どうせ無理だろうけどな」


 いじめっ子グループは僕を指差して大笑いした。

 あぁ、そっちからそう言ってくれるならやってやるさ。


「おっ!?」


 僕はいじめっ子の胸倉を掴んで持ち上げて、


「いってぇっ!?」


 教室端の壁までぶん投げた。


「え……!?」


 僕の所業にグループのメンバーたちは唖然あぜんとしていたけど、


「こ、小林! お前なにやってんだよ!」

「そうだ! なに一丁前に手を出してんだよ!」

「生意気な野郎だな!」


 我に返った連中は僕に襲いかかってきた。


「わ、わ、わ」


 襲ってきた三人の胸を手で押し返しただけなのに、三人も先程の奴と同様に壁まで吹っ飛んだ。


「な、なんだよこれ……」

「小林って、こんなに強かったのかよ……」


 僕は今まで連中にやり返したことがないので奴らは僕の強さを知らなかった。実際は弱かったはずなんだけど、何が起こっているのやら、今の僕の身体からは際限なく力がみなぎってくる。


「こりゃ、下手に怒らせたら俺らが怪我しちまうな……」


 いじめっ子連中は僕に恐怖の視線を浴びせながら撤退していった。


(……ざまぁ。ざまあぁっ!)


 これが最近WEB小説で流行してるチートか?

 僕はリアルでその力を手にしたんだな! 神様、ありがとうございます!

 これでもう、いじめられることはないぞ! もしまた絡まれても返り討ちにしてやる!

 僕は生まれ変わったんだ。今日から新生小林幸太の人生がスタートしたんだ。

 教室内からは僕におののく視線が注がれている。いやぁ爽快爽快。もう、僕はいじめられっ子のパシリ豚ではないのだよ。僕に逆らった奴は皆さっきの連中みたいに制裁してやる!

 この日の僕はずっと気分が高揚こうようしていた。


    ▽


 翌日。

 今日は体育の授業で柔道がある。

 弱い僕は毎回デカイ身体に技をかけられて一本取られるだけだったけど、もうそうはいかないぞ!

 大外刈りで一本取るべく相手の前えりを掴んで力を込める。

 ――が、相手は全く微動だにしない。


「……あれ? コイツめっちゃ弱いぞ?」


 相手の言う通り、昨日の僕はどこへやら。チートじみた力がこれっぽっちも湧いてこない。まるでガス欠の車のようにビクともしない。


「わ、わ」


 僕はあっけなく一本取られた。いつもの僕だった。


「昨日の小林はなんだったんだよ」

「たまたまだったみてーだな」


 僕に力がないことを知った連中はまた僕をいじめいじりはじめた。

 力なき者が多勢に叶うはずもなく、僕の生活はあっという間に振り出しに戻ってしまった。

 昨日の無双状態だった僕は一体なんだったんだよ! 夢か? 夢だったのか!?

 無駄に希望を抱かせやがって!


 ――もうあったまきた!


 こうなったらチートなんぞに頼らず、王道の方法で力を手に入れてやらぁバカヤローめ!

 そうと決めた僕はさっそく動いた。

 筋トレを遂行、ジャンクフードばかりだった食事の内容を調整。柔道、合気道、少林寺拳法、ボクシングを欲張り戦法でバカみたいに練習した。

 肉体的トレーニングだけじゃない。勉強量だって今まで以上に増やした。

 見た目も整えた。顔の造形自体は変えられないけど、髪型や眉、肌、髭を整えるくらいはできる。人生で初めて美容室にも行った。初めての美容室はとても緊張した。

 喋り方も吃音きつおんが出ないように毎日自室で発声練習をした。何回か親からうるさいと怒られたけど、特訓を続けた。

 ぼっち帰宅部なのが幸いして時間はたくさんある。僕はその時間ほぼ全てをつぎ込んで自分をいじめ抜いた。

 全てはあの連中に一矢いっし報いるために。

 僕を日頃からバカにしてくる奴らに仕返しするために。

 その間も連中からはいじめを受けたが、今は耐える時だ。

 そのエネルギーを解き放つのはまだまだまだ先!


 そして。

 数ヶ月が経った。


(ついに努力の成果を発揮する時は来たり……!)


 僕は奴らをぶちのめすのに十分な『力』を手に入れた。

 チートなんかじゃない努力の結晶。ゆえにチート能力なんかと違って忽然こつぜんと消えることはない。努力は裏切らない。

 過剰な特訓のせいか、170センチに対して90キロ以上あった体重は65キロにまで減少していた。

 近頃はいじめっ子連中が僕にちょっかいを出す頻度は大幅に減ったが、過去は変わらないんだぞ。やられた側は恨みを一生忘れない!

 僕は奴らを一生許さない。全員まとめてぶちのめして――


「おい、小林」

「……なに?」


 内なる決意を胸から解放していると、連中の方から僕の自席まで出向いてきた。ほほう、さっそく成果が確認できますな。おあつらえ向きだ。


「――お前、変わったよな。雰囲気も以前と違うし、身体も引き締まってる」


 いじめっ子は僕にどんな罵詈雑言を浴びせてくるのか身構えていたけど、奴の口から飛び出したのは全く予想だにしない賛辞さんじの言葉だった。


「喋りも堂々としてるし垢抜けたよな。以前とオーラが違う」

「正直見直したぜ」


 ……なんだ? こいつら、今まで見たことがないくらい好意的な態度だ。正直寒気がするよ。


「今まで悪かった。これからは普通に仲良くしてほしい」


 いじめっ子たちは僕に土下座で謝罪してきた。

 え?

 いやいや、そこはアンタら僕をディスって僕から返り討ちに遭うのがセオリーっしょ?

 なにこの展開。そんなこと言われたら僕は君らに攻撃できない――


「小林、本当変わったよね。ぶっちゃけ今のあんた、すっごく魅力的だよ」

「うんうん。今度遊びに行こうよ」


 ええっ!? まさかのモテ期到来!?

 全てはこいつらに復讐するための努力ではあったけれど、向けられた好意を踏みにじれるほど僕は非道にはなりきれない。

 だから僕がみんなに返せる言葉はただ一つ。


「――いいよ。みんなで仲良くしよう。よろしくね!」


 熱い掌返しな気もするけど、ここで僕が積年の恨みを晴らしたらこの空気が壊れてしまう。だから僕は全てを飲み込んで今の好意を受け入れよう。僕はふところが深いのだ。


 結論。

 奴らに復讐しようと力をつけた僕はとんとん拍子でリア充の仲間入りを果たした。

 チートなんかに頼らなくても、周囲からの評価は変えられるんだって実感した。

 現実世界にチートは存在しない。

 だからこそ、正々堂々と戦い抜くしかないのだと僕は実感したよ。

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