[29] 鳥
東の門から出て草原を歩く。道中リィナはすずに尋ねた。
「何が斬りたい?」
「硬いのはいやですね。手がしびれます。といって柔らかすぎるタイプは面白くないです。ちょうどいい具合の硬さのやつがいいですよね」
言ってることはめんどうだけどよくわかる。斬れればなんでも楽しいというわけではない。斬ったときの手ごたえというか感触というかでだいぶ楽しさが変わってくるのだ。
「ぶっそうな会話してんな」
燈架が会話に入ってきた。確かに聞きようによっては危ない会話に聞こえるかもしれない。まあゲームの中だし気にしたもんでもないが燈架も会話に巻き込んでいく。一蓮托生。
「燈架だって斬って楽しいものぐらいあるでしょ」
「大剣だと力込めればだいたいのものはぶったぎれるから。綺麗にまっぷたつになるものは爽快感あるな」
それを聞いてすずが「あっ」と小さな声をもらした。何かに気づいたらしい。
「ひょっとしてですが、かたい木とかも一発でいけます?」
「条件が整ってればいけるよ」
燈架に質問を投げかければあっさり答えが返ってくる。いったい何の話をしてるのだろう。
「あのモックドラゴンと戦ったじゃないですか」
今度はすずはこっちに話を振ってきた。
モックドラゴンというふざけた名前のおかげですぐに思い出せた。森の奥で戦ったボスキャラだ。その名の通りに木製のドラゴン。それなりに苦戦した相手。
「あれってもしかして双剣より大剣のほうが戦いやすかったんじゃ……」
あー……かもしれない。私とすずの双剣だとどうしても木の装甲を削るのに苦労した。巨体のせいで動き自体は遅かったから大剣でずばっといった方が楽だった可能性がある。
まあ勝てたからよしとする。
それはそれとしてやっぱり肉切るのが楽しいよねってことで、平原にいる大型の鳥の怪物に狙いをつける。
単純にほどよい硬さ柔らかさであるというのがある。それからいいところに当たればそのまま相手は倒れて動かなくなるのがいい。その感覚がびりびりして癖になるのだ。
少々危ないことを言ってる自覚はある。けれどもリアルでやるつもりなんてさらさらないから、そこのところは見逃してほしい。
むしろゲーム内で発散させることでリアルで実行する可能性を減少させてるわけだからもっと積極的に奨励してくれてもいいはずだ。いやまあ言うほど肉斬りたい願望が強いということはないんだけど。
名をグラスバード。クレハによればグラスはgrassで草のことで、glassつまりはガラスのことではない。
立ってる姿は2Mを超える大型で飛ぶことはできない代わりに、草原を縦横無尽に駆け回っている。色は茶色がかった緑色で草原では若干見つけづらいのが難点だ。
ガラスではないと言ったが当たればもろくて簡単に倒れる。重戦士とか魔法使いとかならともかく私たちみたいなすばやさが身上の軽戦士には試し斬りに格好の相手だ。
ちょうどいいところに1匹通りがかったので最短距離で詰めて一直線で右の直刀を首へと放った。
ほどよい手ごたえ。刃はそのままその首を通り抜けて頭と胴体が2つに分かれる。グラスバードは地に伏した。急所は外したけどなかなかいい感じ。
人が見てるからちょっとはりきってみたけど、すぱっと一撃で決めることができてよかった。
「まあだいたいこんな感じで」
振り返ってすずとついでに燈架の方を見る。なぜだかよくわからないけれど、2人して口を閉じてなんとも困ったような表情を浮かべていた。何か不満でもあるというのか、こいつらは。
「それリィナにしかできないやつだぞ」
燈架に褒められた、照れる――じゃなくてこれ呆れられてるやつだ。どうもはりきりすぎたらしい。
どうしたものか。燈架の方はまあ妥協するにしても、すずの前でかっこわるいところは見せたくない。なんかそれらしい感じで誤魔化さなくては。
「――とまあこれは速攻でつぶすパターンね。そのままマネはできなくても参考にできるところは参考にしなさい。すずにはこれからやる一旦攻撃させてその隙に反撃するパターンの方が向いてると思うからじっくり見てなさい」
「はい! 勉強させていただきますね!」
すずが飛び跳ねながら元気よく返事した。
よし、なんとかいい感じにまとめられた。燈架の視線は変わらず冷たいがが気にしないことにする。
手本を見せてそれから2、3回やらせてみたら、すずは自分流にアレンジしてすぐにできるようになった。呑み込みが早い、優秀な生徒でよかった。新しく買った双剣の切れ味も申し分ない様子。
すずが覚えてる魔法はウォーターブレイド。私の使えるウィンドエッジとはちょっと違う。刃物の表面に高速の水流を発生させることで切断能力を上昇させる。
そのあたりでも戦い方にだいぶ違いがでてきて、すずの方だと刃物を置いとくような攻撃でも結構なダメージになる。わりと読み? みたいなものが重要になってくるような気がする。
よくわかんないが。
その後は3人での連携を試してみたら(だいたい私とすずが追い詰めて燈架がとどめ刺す形)、おもしろいほどうまくいって、鳥肉やら鳥羽やらがバカみたいにとれた。使い道は特に考えてなかったから今度はそれを考える必要が出てきたけれど。
VRMMOで遊んでみた記録 緑窓六角祭 @checkup
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