[28] 暇

 ヒマなので特に約束とかしてなかったけどログイン。

 最後に登録した場所であるアセンブレの広場に出現する。あいもかわらずゴチャゴチャとしてつまらないところだ。

 フレンドリストを開く。といっても登録されているのは10人にも満たないが。間の悪いことにクレハも燈架もインしていなかった。


 唯一名前の隣に緑の丸がついてる人がいて『すず』。森でパーティー組んだ時ついでに入れたのが残ってた。居場所も隠していないようでアセンブレ。

 同じ街にいるということで連絡とかせず直接会いに行く。まあ遠目で見て都合悪そうなら声はかけないつもりだけど。例えば他の友達と遊んでる場合とか。


 ちょうど見つけたソフトクリームを食べながら歩く。

 つまらない風景、つまらない味だけど、それはそれでいいんじゃないかという気分に少しなってくる。みんながみんな趣向をこらしていてはくたびれるというものだ。

 それは単に妥協と呼ばれるものかもしれないが。


 すぐに気づいた。

 茶のショートカットの猫耳忍者少女。目立つ容姿をしている、というわけではないが常にちょこまか動いているのでわかりやすい。忍者がそれでいいのかとは思わなくもないが。

 1人で武器屋のショーウインドウにかぶりつくようにながめていた。


 後ろから声をかける。

「よ、何してんの?」

「うわわわわ、先生じゃないですか、びっくりしました」

「そんな驚かなくてもいいでしょ」


 驚かせるつもりはなかったのに、言葉通りに大きく飛びのいて、すずはめっちゃ驚いてた。何か悪いことをしてたわけでもないだろうに、リアクションが大げさすぎる。

 改めて私は尋ねる。

「で、何してたの?」


「新しい双剣を買おうか迷ってたんですよねー」

 すずの目線のさきには小ぶりな曲刀が2本並んでいる。

 攻撃力だとか特殊効果だとかそういう性能の話はさておいて、私は思ったことをそのまま言った。

「いいじゃない。かっこいい、センスある」

「えへへ、そうですか。でも肝心のお金がちょっと足りないんですよ」


 話を詳しく聞いたところ本当にちょっとだけ足りなかった。値段にしてソフトリーム1つ程度。

 そのぐらいなら私も持ち合わせがあった。

「そういうことなら足りない分が私が出してあげましょう」

「えええ、そんなことしてもらう理由ないです。悪いですよぅ」

「前回手伝ってくれたお礼よ。こういうのは素直に受け取っときなさい」

「ありがとうございます!」

「どういたしまして」


 素直でいい娘だ。何かと手助けしてあげたくなる。

 クレハとちがって。いやあの娘も昔はもっとそういう面があった気がする。どうだっただろうか? 気のせいかもしれない。今のイメージが強すぎて過去のことはうまく思い出せない。

 すずは店に入ると早速双剣を買って出てきた。その場で装備して手に持って色んな角度から眺める。横から見てるだけで十分わかる、かなり気に入ったようだ。


 いいんだけど街中でやるこっちゃないなと思う。そんなことを考えてたらぽっかり空いてた今日のスケジュールが急に埋まった。

「時間ある?」

「ありますよ」

「それなら今から試し斬りに行きましょう」

 そういうわけでその場のノリと勢いで、すずとフィールドに出て適当なモンスターを狩ることに決まった。


 再び街をてくてく歩く。軽戦士2人の編成じゃあんまり強いのは相手にできないだろうから東の門へ。

「おー、リィナもインしてたんだな」

 今度は私が後ろから呼びかけられた。

 聞きなれた声に振り返れば、大剣背負った金髪ポニーテール熊耳少女が手を振りながら近づいてくる。さっきはログインしてなかったけど、その後ログインしたようだ。


 燈架は私を見てそれからその隣に立っているすずに視線を移す。そこで黙った。どうかしたんだろうかと私もそちらを見れば、すずは若干困ったような顔をしていた。

 気まずい沈黙の理由を考えてみれば、わりとあっさり思い当たった。

 すずと燈架は初対面だ。燈架には森の探索を手伝ってくれた娘の話はしてたけど顔をあわせてはいなかった。すずの方だってもちろん燈架を知らない。


 こういう時、両方を知ってる私がかけ橋になんないといけないのか。正直そういうのは苦手だけどそんなこと言ってられない状況らしかった。

「えーと、燈架、こっちの娘はすずよ。前に森で手伝ってくれたって話した娘。で、すず、あれが燈架、私の、うーん、友達? 友達よ」

 燈架は年上で何かとひとの世話をやいてくることが多いけど概ね友達というカテゴリで問題ない、と思う。


「あー、君がすずちゃんか、よろしくね。森ではリィナとクレハのこと手伝ってくれてありがとう」

「わわわわ、あれは私が助けてもらっただけですから、気にしないでください。こちらこそよろしくです」

 燈架は基本、年下の子の面倒見がいい。なんか年下の子になつかれる性質がある。そういう物質でも振りまいてんだろうか。ともかくすずともなんだかんだすぐに打ち解けることだろう。

 そこのところは私はあれこれ気を回す必要はない。らくちん。


「燈架、今ヒマ?」

「時間なら多少あるけど」

「それなら外に試し斬りに行くところだからついてきてよ」

 成り行きで1人増えて3人でフィールドに出ることになった。

 後衛なし。3人いて3人とも魔法は自分にしかかけないタイプ。

 まあ手の込んだ敵が現れなければ大丈夫。そういうのは街の近くでは出ないって話だし。

 のんびりピクニックの気分。たまにはそういうのもいい。

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