6-7 甘い言葉と微笑みと・・・
あれ・・・?あのパラソル・・どこかで見たことがあるなぁ・・・?そんなふうに思っていると、アレックス皇子が今まで聞いたことも無いような甘い声で女性に声を掛けた。
「リーゼロッテッ!」
ぞわっ
あまりにも似つかわしくない笑顔と甘い声に思わず私は鳥肌と悪寒が立ってしまった。隣に立つミラージュも私と同じ気持ちだったのか、露骨に嫌そうな顔でアレックス皇子を見ている。
するとリーゼロッテと呼ばれた女性はこちらを振り向き、アレックス皇子を見て満面の笑みを浮かべた。
「アレックス様っ!」
彼女もまた何とも言えず甘えた声でアレックス皇子の名を呼び、小走りで駆けてくる。
「こらこら、走ったりして転んだら危ないぞ?怪我でもしたらどうするんだ?」
ぞわぞわぞわっ!!
あ、駄目だ。寒すぎて全身に鳥肌が立ってしまった。しかし、世の中には甘い声と笑顔で人に鳥肌を立てる事が出来る人物がいる者なのだとこの時改めて実感した。
「フフフ・・ごめんなさい。アレックス様。ところで・・こちらの方々はアレックス様の下女ですか?」
リーゼロッテは私とミラージュを交互に見ながら言う。
「げ・・・下女・・・っ!」
ミラージュが怒りを抑えながらリーゼロッテを見た。うんうん、ミラージュが怒りたくなる気持ちも無理はない。一応仮にも私はオーランド王国の第四皇女でありグランダ王国のアレックス皇子の妻である。そしてミラージュは私専属の侍女だと言うのに・・・メイドに間違われるならまだしも、よりにもよって下女とは・・。
するとアレックス皇子はミラージュの怒りをヒシヒシと感じたのか、慌てたように言った。
「違う違う、そうではない。こいつら・・いや、こちらの女性が私の妻であるレベッカだ。そしてこちらの女性はレベッカの侍女のミラージュだよ。」
ブワッ!
またしても全身に鳥肌が立ってしまった。ああ・・・折角収まったと言うのに・・。
今自分の事を何て言った?俺じゃなく、私?それに最初にこいつらって言ったけど・・こちらと言った?
今の台詞・・思い出すだけで悪寒が走る。これはもはや私に取って一種の拷問に近いものを感じてしまう。ミラージュもいつもの勢いはどこへやら。真っ青に青ざめて立っている。
「まあ・・・そうでしたの?申し訳ございません。あまりにも質素で薄汚れた服を召されていたので、まさか皇女様とお付きの侍女様だったとは思いもしませんでした。初めまして。リーゼロッテ・シャルルと申します。この度アレックス様の命により専属メイドに任命されました。」
リーゼロッテはパラソルをさしたまま会釈する。
「は・・あ・・こちらこそよろしくお願いします。」
ええっ?!こ、この女性が・・・私の専属メイドになるっ?!軽い衝撃を受けつつ、
私も頭をぺこりと下げて改めてこのリーゼロッテと呼ばれた女性をマジマジと見た。
それにしても・・目の前の彼女の着ているドレスは、目を見張るようなものだった。
上質なシルク素材の生地をふんだんに使ったドレスは全体が淡いピンク色をしている。大きく開いた胸元はこれでもかというくらい胸の谷間を強調している。袖口や裾には煌びやかなレースが縫い付けられ、ドレスにも見事な金糸の刺繍が施されていた。ウェーブのかかった髪は腰まで届くほどの長さである。
う~ん・・・これではどちらが皇女でどちらがメイドが分かったものではない。
「よし、紹介は終わったな。リーゼロッテが君の専属メイドになるのは明日からだ。私は彼女を連れて城の案内をしなければならないのでこれで失礼するよ。では参ろうか?リーゼロッテ。」
アレックス皇子はリーゼロッテを見ると優しい笑みを浮かべた。
ゾワゾワゾワッ!!
君?失礼するよ?一体誰に向けての言葉なのだろうか?!
私の身体に思わず髪の毛まで逆立ってしまうのではないかと思われるほどの鳥肌が立ってしまった。
そして2人は私とミラージュに見向きもせずに、仲睦まじげに去って行った―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます