5-3 目覚めれば袋詰めにされていた私

 真夜中―


私はある異変を感じて目が覚め・・驚いた。何と自分の身体が大きな袋の中に閉じ込められ、固い床の上の上に転がされていたのだ。しかもご丁寧に両手両足は後ろ手に縛られ、口にはさるぐつわを噛ませられて頭の後ろで縛られている。


「モガーッ!モガッ!(何ーっ!!これっ!)」


さるぐつわのせいで発する言葉がモガモガになってしまう。すると頭上で声が聞こえた。


「あら・・何だ、もう目が覚めてしまったのねぇ。あれだけたっぷりと食事の中に睡眠薬を仕込んだのに・・。」


その声はどこかで聞き覚えがある。え・・・と・・どこだっけ・・?


「おい、本当にこんな方法で・・・うまくいくんだろうな?」


男の声が聞こえてきた。


「ああ、勿論だよ。あんた達だって見ただろう?あの金ぴかに光る立派な馬車を・・。」


女の嬉しそうな声が聞こえてくる。


「ああ・・確かに見たが・・・何だかあの馬車・・何処かで見覚えがあるように見えるんだが・・・。」


男は複数人いるのだろうか?別の声が聞こえてきた。


「ふん・・?そうかい?だけど貴族の馬車なんてどれもあんななもんじゃないのかい?とにかく、こいつらは相当金を持ってるはずだ。きっとこちらの言い分で身代金を払ってくれるに違いないさ。まあ、私に任せなよ。」


「モガッ?!モガモガモガッ?!(何?!身代金っ?!)」


まさか・・・私、誘拐された?!あまりにも衝撃的な話で、袋の中で身もだえした。


「あー、もう・・うるさいガキだねえ・・。夜明けまではまだ時間があるから・・、もう少し寝てな。」


ブスッ!


途端に縛られて入る麻袋の中に針のようなものが突き刺さって来た。

うわっ!危ないっ!


「モガーッ!モガモガモガモガッ!!(ちょっとーっ!何するのよっ!!)」


しかし次の瞬間・・・。


プシュ~・・・・


針の先端から紫色の煙が充満し・・・・私は再び眠りについてしまった―。




****


眩しい朝日が顔を直撃し、私は思わず太陽とは逆の方に背を向けた。


う~ん・・・ここは何処だろう・・?


ぼんやりする頭で目を開けると、私は未だに床の上に転がっている状態だった。ただ先ほどと違うのは私はさるぐつわを外され、袋の中から出されていた。

辺りを見渡すと、そこはまるでログハウスのような造りをしていた。床も壁も天井も全て木で出来ている。そして色々なものが雑然と部屋の中に置かれていた。畑を耕す鍬やバケツ・・壊れたテーブルや椅子・・等々。


「ひょっとして・・ここは物置かな?」


上を見上げれば、窓が見える。太陽は大分高いところまで上っているように思えた。


「今お昼ぐらいかぁ・・・。」


ぐう~・・・・


そう考えた途端、お腹の虫が鳴りだした。ああ・・このお腹の空き具合・・やはり今回も朝食をたべそこなってしまったようだ。その時・・・。


「何だってっ?!断られたっ?!」


聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。


「ああ・・・そうなんだよ。あの金持ち男に身代金、金貨1000枚を要求したら鼻で笑われたんだよ。」


「鼻で笑った・・?ひょっとして、あのガキの価値はもっと高いって言う事かい?」


「違うっ!そうじゃないって!男はこう言ったんだよっ!『誰があいつの為に金など払うかっ!そんな無駄な行為はドブに金を落とすようなものだ!びた一文だって支払わん!』って!」


男の焦り声がドアの外から聞こえてきた。そこで私はようやく状況がつかめた。

はは~ん・・・。

つまり、私は宿屋で睡眠薬入りの食事を出され・・深い眠りについた時に身代金目的で誘拐された・・・。そして脅迫されているのはアレックス皇子だと言う事に―。

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