5-4 女盗賊と私
やれやれ・・・またしてもアレックス皇子は私を見捨てる気なのか・・。何だかここまでされると、どうにでもなれと言う気持ちになってしまう。それどころか、一度でいいからアレックス皇子をギャフンと言わせたい気持ちがムクムクと湧き上がってきた。・・・が、今のところ芋虫の様に縛られて床に転がされている私には何も妙案
が思い浮かばなかった。
その時―
ガチャッ
突然扉が開かれて、この部屋にズカズカと人が入って来た。
「おや・・お嬢さん、目が覚めたのかい?」
私に声をかけてきたのは・・・。
「あ!貴女は・・・宿屋の女主人っ!」
なんと、私を誘拐したのは宿屋の女主人だったのだ・・・と言うか、先ほどの会話で私の料理に睡眠薬を仕込んだのであれば、おのずと犯人はあの宿屋で働く従業員に決まっているか・・・。
「な、何で私を誘拐したんですかっ?!」
何とか不自由な身をよじって、身体を起こすと私は女主人に話しかけた。
「それはねえ・・あんた達も運が悪かったねぇ・・ここ、『アルト』はねえ、全員盗賊なんだよ。ここに村を作って、旅人が立ち寄った時にちょっと金目になりそうなものを奪って追い払う・・そう言う事を繰り返して来た村なのさ。まぁそれだけじゃ食べて行く事は難しいから、時々この周囲を通り抜ける行商人や旅人を襲って金品を奪ったり・・そんな風にして我々は暮らしているんだよ。」
女主人はあくどい行為をしているにも関わらず、堂々と語る。
「そうなんですか?随分酷いことをしてきたのですね。」
「そこへあんた達がこの村へ立ち寄ったのさ。いや~・・それにしても驚いたね。金ぴかの馬車なんて初めて見たからさ。これは絶対金持ちの貴族に違いないと思って、それでお嬢さんを誘拐して身代金をたっぷりふんだくろうと思ったのさ。なのに・・。」
女主人は腕組みしながらチラリと私を見た。
「なのに・・・何なんだい?あの男は・・・。あんたの身内なんだろう?なのにこっちが身代金を要求しているのにびた一文払わないって言うんだからね!一体あの男はあんたの何なんだい?」
そこで私は答えた。
「あの方は・・・一応私の夫ですけど?しかもまだ結婚して半月です。」
「な・・何だってっ?!そ、それじゃ・・あんた達は新婚さんなのかいっ?!」
「ええ、一応は・・・。でも残念でしたね。誘拐する相手を間違えたようですね。あの方は私の命なんかどうなったっていいと思ってるような方ですよ。現にほんの数日前に森の中で山賊に襲われたときも馬車から降りるように命じられたのですが、あの方は馬車から降りる事もせず、私を降ろしたのですから。」
「何・・?その話・・本当なのかい?」
途端に何故か女主人の顔に同情が浮かぶ。
「ええ、そうですよ。それだけじゃありません。結婚の為に初めての顔合わせの時は『お前に永遠の愛は誓わない。何故ならそこに愛など存在しないのだから。』とはっきり言われたし、結婚式は欠席されたので私が代理の方と結婚式を挙げました。まあ・・他にも色々合って数え上げればきりが有りませんが・・。」
「何だって・・・何って最低な男なんだっ!こんな可愛らしいお嬢ちゃんにそんな酷い真似を・・・!絶対に許すものかっ!」
女主人は私の話を聞き終えると顔を真っ赤にして自分たちの事はさておき、激怒した。そして私を見ると言った。
「いいかい?確かに私達は・・・盗賊だ。悪い事も沢山してきたが今まで人を殺した事も無ければ、傷つけたことも無いんだよ。・・それにしてもお嬢ちゃんの身の上は本当に同情してしまうよ・・・。どうだい?ここは私達と手を組んで、1つその男に一泡吹かせてやりたいと思わないかい?」
女主人はニヤリと笑みを浮かべて私を見た。
何だか話が妙な流れになって来た。けれど・・・。
何という偶然・・まさか私が先ほどまで考えていた事とこの女主人・・基、女盗賊と考えが一致するなんて・・。そこで私にはある考えが浮かんだ。
アレックス皇子に一泡吹かせると同時に、この盗賊の村を壊滅状態にしてやろう。
私の力を行使すれば、ここにミラージュがいなくてもたやすい事。
「はい、是非ともご協力お願いします。」
そして私はニッコリと笑みを浮かべた―。
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