3-2 2番目の愛人

「全く・・・こんなオーソドックスな嫌がらせしなくたって最初から初夜をする気が無いなら私の事なんか無視してくれればいいのに・・・。もういいわ。自分の部屋に戻りましょう。」


私は立ち上がって扉へと向かった。こんな何もない部屋にいたって落ち着かない。まだ完全に夜も明けていないようだから自分の部屋に戻って寝なおそう・・。

そしてドアを開けて、まだ薄暗い廊下をふらふらと歩きながら私は自分の部屋に戻り・・。ベッドの中に潜り込んだのは言うまでも無かった―。




「・・ろ、・・起きろ。」


う~ん・・・誰だろう?誰かの声がすぐそばで聞こえる・・。


「・・おい!起きろっ!」


「・・え?」


慌ててガバリと起き上がると、そこには腕組みをして怒り心頭なアレックス皇子と、昨夜私を呼びに来た新しいメイドの・・確かクラウディアと名乗るメイドがその後ろに立っている。これは・・一体どういう状況なのだろう・・?寝ぼけ眼をこすり、窓の外を見ればカーテンの隙間からまぶしい太陽が差し込んでいる。


「あ・・・おはようございます・・・。」


とりあえず、3日ぶりに会うアレックス皇子に頭を下げて挨拶をする。


「何が・・・おはようございます・・だ・・・。」


アレックス皇子はかなり苛立っているのか声を震わせながら私を見下ろしていた。


「あの・・今、何時ですか?」


「・・・午前10時だ。」


「そうですか。ところで私の侍女のミラージュはどこでしょう?何かご存じですか?」


キョロキョロしながらアレックス皇子に尋ねた。・・この時間になってもミラージュが私の傍にいないなんて・・何かおかしい。


「お前の侍女なら・・・朝から侍女教育を受けると言う事で侍女長から城の案内を受けている。」


はあ・・・と溜息をつきながらアレックス皇子は右手で髪をかきあげた。


「そうでしたか・・・。」


そうか、ミラージュはいないのか・・。

すると・・・。


「おい!そんな事より・・まずは俺の事を聞くのが先だろう?!」


朝からよく通る声でアレックス皇子は声を荒げる。


「あ・・そう言えば・・今朝はどのようなご用向きでこちらへいらしたのですか?」


アレックス皇子を見上げて尋ねる。


「は・・・・?お前・・・本気で言っているのか?それはこちらの台詞だ。昨夜は何処へ行っていたっ?!」


「え・・?何処って・・・?」


しかし間髪入れずにアレックス皇子は言う。


「昨夜は・・・待てど暮らせど、一向にお前が俺の部屋に姿を現さない。なのでついに痺れを切らして、この部屋を尋ねてみれば部屋の中はもぬけの殻。それなのに今朝来てみれば、部屋に戻りベッドの中で眠っている・・・一体昨夜は一晩中何処へ行っていたのだ?!そんなに俺と夫婦の営みをするのが嫌なのかっ?!」


いやいや・・・・夫婦の営みなんて・・朝からそんな言葉を大きな声で叫ぶなんて・・。大体・・・。


そこで私は新しく専属メイドになったと名乗るクラウディアと目が合った。


「そう、彼女ですよ!私の専属メイドになった、そこにいるクラウディア。彼女から昨夜私の部屋にやってきて部屋を案内したのですのよ?皇子様がお待ちですのでお部屋へご案内いたしますって呼びに。それで私は彼女の後をついていき、見知らぬ部屋に通されて・・一晩中寝ずにお待ちしていたのですよ。」


「・・その話、本当なのか・・・?」


アレックス皇子はクラウディアを見ると尋ねた。すると・・・・。


「いいえ、私は何も知りません。レベッカ様の部屋へお呼びに伺った際・・既にこの部屋から居なくなっておりました。」


おおっ!私の前で堂々と嘘をついた!


「しかし・・・こいつはお前が呼びにやってきて部屋から連れ出したと言っているぞ?」


アレックス皇子は私を指さしてクラウディアに言う。すると・・・。


「ひ、酷い・・・アレックス皇子様・・ここで5年間もメイドとして勤めている私よりも・・ほんの3日前にこの国へやってきたレベッカ様の言葉の方を信じるのですか?私の事を疑うなんて・・酷すぎます。何故レベッカ様がそのような嘘を言うのか私には信じられません・・・・。」


そしてシクシクと泣き始めた。


「ああ・・泣くな。クラウディア。俺が悪かったよ・・・お前を少しでも疑うような真似をして・・。」


アレックス皇子はクラウディアをなだめ始めた。


「・・は?」


私は耳を疑った。何故・・・一応妻である私の言葉よりも・・・そんな気の強そうなメイドの言葉を信じるのだろう?いや、そもそも仮にも皇女である私の前で堂々と嘘をつくその精神の図太さに呆れてしまう。


「き、きっと・・・レベッカ様は・・・アレックス皇子様との・・夜の営みが嫌で・・逃げたのですよ・・それなのに・・私のせいにするなんて・・・。」


「え?!」


何と!そこまで口から出まかせを言うなんて!そして、その言葉を聞いたアレックス皇子の顔色が変わった。


「何・・・?そうなのか・・・?」


そして私をジロリと睨み付けた。


「あの、ちょっと待ってください。私は本当の事しか言っておりません。本当にあのメイドが・・。」


すると・・・ワッ!とクラウディアは泣き崩れてしまった。


「酷い・・酷いですっ!レベッカ様!」


するとアレックス皇子はとんでもないことを言ってきた。


「ああ・・・落ち着け、クラウディア。堂々と嘘をついたレベッカには今日1日食事抜きの罰を与えるから・・どうか泣き止んでくれ。私が悪かったから・・。」


はいっ?!食事抜き・・?しかも丸1日・・嘘でしょうっ?!


「あ、あの・・アレックス皇子・・。」


「うるさいっ!分かったな?お前は俺をたばかった罪で今日は1日食事抜きだ!」


そしてシクシクなくクラウディアの肩を抱いて、2人は部屋を出て行った。その時・・私は見てしまった。クラウディアが意地悪そうな笑みを浮かべて私を見ているのを。


バタン・・・・


閉じられた扉を見ながら私は思った。


「ふ~ん・・・あのメイドが・・2番目の愛人なのね・・。」


と―。









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