3-1 また騙された!

 侍女長とフットマンに引っ張られるように部屋から連れ去られたビビアンを私はまだ憤っているミラージュと冷静なメイド長と3人で見送った。

そしてメイド長が私を振り向くと、深々と頭を下げた。


「大変申し訳ございませんでした。レベッカ様。実は数日前から見慣れぬメイドが城に紛れ込んでいると報告が入っておりました。しかしアレックス皇子の部屋から出てきたところを別のメイドが目撃していたので、てっきり新人メイドかとばかり思っていたのですが・・名前を確認したところ名簿に名前が無かったので良く調べた処、勝手にメイドのフリをして紛れ込んでいる女だと言う事がついさっき分ったのです。そこでこちらの部屋へ伺うと思っていた矢先の出来事でした。」


「そうでしたか・・こんな偶然あるものなのですねぇ・・・。」


言いながらミラージュはチラリと私を見た。・・勘の良いミラージュはやはり私の力が働いた事に気付いている様子だった。


「いえ、でもこれでもう・・ビビアンは私の担当から外れる訳ですよね?」


尋ねると、メイド長は力強く頷いた。


「ええ、当然です!彼女はすぐにでもこの城から速攻追い出し、二度と城には入れないように出入り禁止に致しますっ!」


「そうですか。それは嬉しい限りです。」


何しろ私はビビアンのせいで睡眠不足の上に教会でこき使われているのだから。


「あの・・・それで・・私事の話になるのですが・・・。」


すると急にそれまで真面目な態度を取っていたメイド長さんが頬を赤らめてモジモジしだした。


「どうなさったのですか?メイド長。」


ミラージュが首を傾げた。


「ええ・・・じ、実は・・私には3年お付き合いしていて・・つい最近別れてしまった恋人がいたのですが・・。」


メイド長はためらいがちに話す。

え?恋人?一体何を突然にこのような話を私に・・・?


「それが・・・昨日復縁し、結婚する事に決まったのですっ!」


メイド長は目をキラキラさせると言った。


「まあ!それはおめでとう!」


「おめでとうございます、メイド長。」


私とミラージュが手を叩くと、メイド長はますます頬を赤らめた。


「ええ・・そうなのです。あの時、レベッカ様は仰って頂けましたよね?今に貴女にも素晴らしい出来事が待っていますよって。」


「ええ。確かに言ったわ。」


頷くとメイド長はニッコリ笑った。


「まさに!その通りになったのですよっ!これはもうレベッカ様のお陰です!何故かは分りませんが、私の本能がそう言っているのです!なのでこれから先もずっと精神誠意、レベッカ様にお仕え致しますっ!」


そして深々と頭を下げて来た。・・・私とミラージュはその様子を見て顔を見合わせて笑みを浮かべた―。




****


「やりましたね、レベッカ様。」


メイド長が部屋を去った後・・シャワーの準備をしながらレベッカが私に言った。


「ええ・・そうね。メイド長が・・私たちの味方になってくれたわ。」


「順調じゃないですか?この調子でジャンジャン味方を増やしていきましょうよ!」


「ええ、そうね。でも・・・。」


私は言葉を濁した。


「でも・・何ですか?」


ミラージュが尋ねてきた。


「あまり急激に私たちの味方が増えれば・・アレックス皇子が不審に思って解雇してしまわないかしら・・?」


以前オーランド王国で似たような経験をしたことが頭をよぎる。


「あ~・・・それはあるかもしれませんね・・・。」


ミラージュもその事を思い出したのか、頷く。


「ね、だから少しずつ味方を増やしていった方が・・いいと思わない?」


「はい、そうですね。ではレベッカ様のシャワーの準備が出来ました。後はお1人で大丈夫ですか?」


時計を見ると時刻は夜の9時になろうとしていた。


「ええ。もう大丈夫よ。お疲れさま、ミラージュ。おやすみなさい。」


「はい、それでは失礼致します。」


ミラージュは頭を下げると部屋を出て行った。


「さて・・ではシャワーを浴びてこようかしら。」


昨夜はわざわざ湯あみと言ってバスルームへ連れて行かれてしまったけれども、簡単なシャワーなら部屋で浴びる事が出来るようになっていた。


バタン・・・


私はシャワールームへ入り・・・短いシャワータイムを堪能した―。



約20分後―


「ふぅ~・・・気持ちよかった・・。」


バスルームから部屋へ戻ると、途端に欠伸が出てしまった。


「ふわああ~・・・眠い・・。」


考えてみれば今日はほぼ寝不足状態だったからな・・・。

時計を見ればまだ22時前だった。

けれど・・・・。


「うん、少し早いけれど寝ましょう。」


そしてベッドに向かって潜り込もうとしたとき・・


トントン


ノックの音が聞こえた。


「え・・・?こんな時間に誰かしら・・?」


不審に思いつつ、扉を開けるとそこには見知らぬ若いメイドが立っていた。


「夜分に申し訳ございません。先程専属メイドに選ばれたクラウディアと申します。皇子様がお待ちですのでお部屋へご案内いたします。」


「え?!新しい専属メイドッ?!アレックス皇子が待ってる?!」


まさに寝耳に水だ。あまりにもいきなりの話で眠気が吹き飛んでしまった。


「はい・・・さようでございます。では・・お渡りして下さい。ささ、早く。」


急きたてられるように連れ出される私。一体何がどうなっているのだろうか?それともこれはもう夢の中?

訳が分からずも、とりあえずメイドの後をついて行くと見知らぬ扉の前でクラウディアは立ち止まった。


「ささ、どうぞお入りください。後から皇子が参りますので・・このお部屋でお待ち下さいね。」


「はあ・・・。」


否応なしに部屋へ入らされ・・・


バタン


扉は閉ざされてしまった。

そこはだだっ広いで、わずかに灯されたアルコールランプの光で中央に大きなベッドが置かれているのが分った。


「・・・。」


とりあえず、立っているのも疲れるので私はベッドに上がり込み・・アレックス皇子がやって来るのを・・ただひたすら待ち・・・。


窓から薄日が差しこむ頃に・・ようやく自分がまた騙された事に気が付いた―。




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