2-5 新郎不在のチャペル
花嫁姿になった私はメイド長に案内されて王宮の外にあると言われているチャペルへと向かった。美しく整えられた庭園を歩くメイド長とミラージュ、そして私。
空はとても青く澄み渡り、遠くでは鐘の鳴り響く音が聞こえてくるも・・・。
しかし・・何か違和感を感じる。
「ねぇ・・・ミラージュ。何か・・何か変だと思わない?」
私は隣を歩くミラージュに声を掛けた。
「レベッカ様もですか?私も先ほどから妙だ妙だと思っていたのですよ。」
「あ・・やっぱり・・。」
しかし、私たちの前を歩くメイド長は会話が聞こえているはずなのにスタスタと歩き続けている。が・・・時折こちらをチラチラ気にしているようにも見えた。
「あ!そうです!分かりましたっ!」
突如ミラージュが大きな声を上げた。
「ど、どうしたの?ミラージュ。突然声を上げて・・。」
私はミラージュを振り返った。
「分かったのですよ、この違和感の正体が・・・人ですっ!全く人の気配を感じないんですよっ!普通・・王族同士の結婚式なら正体を受けた人々が大勢いるはずじゃないですか!なのに・・誰もいないんですよ!人影一つ見当たりませんっ!」
「あら・・・そう言えばそうね・・・?何故かしら・・。」
「確か私たちがこの国へ到着した時には大勢のお客様が集まっていましたよね?なのに・・何なんですか?今日の・・この閑散とした雰囲気は・・・。ひょっとして誰も式には参加しないのでは?!」
するとその言葉を聞いたメイド長の肩がビクリと震えた。
「ああ!やっぱり!そうなのですねっ?!」
「い、いえ・・そ、それは・・・!」
しかし、ミラージュはメイド長の首根っこを掴み上げると言った。
「さぁ!白状なさいっ!一体・・・この国は何を考えているのですかっ?!結婚式は・・本当に行われるのでしょうね?!」
「きゃああ!や、やめて、ミラージュ!メイド長を絞め殺す気なのっ?!」
私は必死になって興奮するミラージュを止め・・一悶着?起こしながらも何とかこれから挙式する予定のチャペルへ到着した。
「で、では・・・こちらから中へ・・お入り下さい・・・。」
メイド長は乱れた髪を整えながら、どこからともなく赤いバラの花束のウェディングブーケを取り出すと不意に私に押し付けてきた。そしてそのままチャペルのドアを開ける。
「え?ちょ、ちょっと待ってください!いきなりなんて・・・!」
私は突然の言葉に驚いた。
「そうですよっ!あまりにもいきなりですっ!大体打ち合わせすらしていないじゃありませんか!」
ミラージュも必死になって言うが、ドアが開閉されてはもう彼女も黙るしかない。
「レベッカ様・・・・ご武運を!私はチャペルの席で見守っております!」
言うと、ミラージュはそそくさと身をかがめるようにチャペルの中に入り一番後ろの席に着いた。
ええいっ!もうどうにでもなれよ・・・!
私はチャペルの中に一歩足を踏み入れ・・・その室内のあまりの暗さに我が目を疑った。妙にだだっ広く、首が痛くなるほど高い天井には一面に豪華なステンドグラスがはめ込まれ、そこから太陽の光が差し込み、床を鮮やかな色の影で照らしている。祭壇にまっすぐ続くヴァージンロードには深紅のカーペットが敷かれ、祭壇の前にはろうそくの炎に揺らめく神父様が立っているのが見えるのだが・・・。まるでこれは結婚式と言うよりは何かの儀式の様にも思える。
「え・・・?」
そして私は目を凝らし・・・嘘でしょうと思いつつ、片目をこすった。
なぜなら祭壇の前には、肝心の新郎であるアレックス皇子の姿は無かったからだ。
え?何?どう言う事なの?どうして・・・あそこに立っているのは神父様だけなの?
思わず助けを求める為に、ミラージュの顔を見ると彼女も驚愕の表情を浮かべている。しかし・・・。
突如パイプオルガンの音が響き渡り、神父様が手招きをしている。
そう・・・1人であそこ迄行かなければいけないと言う事ね・・・?
私は覚悟を決めて、両手でウェディングブーケを握り締めて前を向くと・・・祭壇へ向かってゆっくりと歩き始めた―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます