2-6 嫌がらせ結婚式

 私はゆっくりした足取りでヴァージンロードを1人で歩き、神父様の元へ近づいていく。その時になって気が付いた。左右のベンチにそれぞれ10人前後の男女が座っていたのだ。ひょっとすると王族の関係者なのだろうか?全員が身なりの良い服を着ているし、何より女性たちのドレスは花嫁の私などよりもよほど立派なものだった。そして私は彼らから好奇心のある視線にさらされている。


「・・・。」


 何だかここへきて、色々惨めな目に合わされてきたけれども・・いくら何でもこれはさすがに酷すぎるのでは?こんなひどい嫌がらせ結婚式を挙げさせられるなんて聞いていないし、前代未聞だ。新郎がいないヴァージンロードを介添え人も無しにたった一人で歩き、ほんのわずかにいる参列者たちの女性のドレスは花嫁の私よりもずっと華やかできらびやかで・・誰もが私の姿を好奇心旺盛の視線で見つめているのだから。


 ヴァージンロードを歩きながら私はチラリと今の自分の姿を見る。アクセサリーの類は一切身に着けておらず、シンプルなウェディングワンピース。なのに参列者の女性たちは目もくらむような宝石を身に着け、美しい衣装を身にまとっている。そしてこれ見よがしに聞こえてくる酷評の数々・・・。


「ねぇ見ましたか・・?あの貧相なドレスは・・。」

「嫌だ、あれはドレスとは言えませんわよ。庶民の着る洋服ですわよ。」

「しかし・・いくら結婚したくないとはいえこれはさすがにやり過ぎだろう?」

「あの皇女様・・今、どんな気分だろう・・?」

「私だったら惨め過ぎて、この場にいる事も出来ないわ・・・。」


等々・・・どれも聞いてると私の心をえぐってくるような内容ばかりだ。


「落ち着くのよ・・・私・・心を無心にして・・・そう、何も聞こえない。何も感じない・・・。」


私は小声でぶつぶつと呟きながら、ようやく神父様の前にたどり着いた。神父様と私の間には台座が置かれ、そこにはリングピローの上に乗った指輪が・・たった一つだけ乗っていた。

神父様は私の前に立つと口を開いた。


「コホン。え~・・それではこれより、アレックス・キング皇子とレベッカ・ヤング皇女の結婚式を執り行いたいと思うのですが・・肝心のアレックス皇子は不在なので、誓いの言葉は無しで指輪の交換も行いません。ですので・・・レベッカ皇女、その指輪をご自身で左手の薬指にはめて下さい。」


「え・・ええ?!じ、自分ではめるのですか?!」


あまりの神父様の発言に驚いてしまった。


「え、ええ・・・申し訳ございませんが・・・肝心の皇子不在の式ですので・・。」


「で、ですが・・・新郎が不在の上に・・・1人きりの結婚式で、挙句に指輪を自分ではめるなんて・・・・。」


そこまで言いって私は神父様の顔を見た。その神父様は大層困り切った顔で私を見ている。その顔は・・・もう勘弁してくれと訴えているように見えた。そうだ、ここに立っている神父様は何も悪くはない。この人だって・・アレックス皇子の無茶な命令を受けてしまった犠牲者なのかもしれない。


「うう・・・わ、分かりました・・。」


しぶしぶ、リングピローの上に乗っている指輪に手を伸ばしかけた時―。


「ああ~・・・もう!気の毒過ぎて見ていられないよ!」


大聖堂に良く響き渡る声が聞こえたかと思うと、参列席から1人の男性が立ち上ると、こちらへ向かって歩いて来た。そして私の目の前でピタリと足を止める。


「今回は僕が特別にアレックス皇子の役をやるよ?いいよね?」


そして私をじっと見下ろした。その顔には見覚えがある。


「あ・・・貴方は!昨日・・・私たちを客室まで送り届けてくれたお方・・・・!」


思わず、神父様の前だと言うのに、声を張り上げてしまった。すると神父様は言った。


「これはこれは・・まさかランス皇子様が自ら代理をして下さるとは・・。」


「え?ランス・・皇子様・・・?」


すると目の前の男性は言った。


「申し遅れてしまいましたね?僕はこの国の第一皇子、ランス・キングと申します。本日は弟の代理で新郎役・・とまでは行かずとも弟の代わりに指輪を嵌めさせて頂きますね。」


そしてランス皇子は私の左手を取り・・するりと薬指に指輪をはめてくれた―。





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