2-3 え?これがウェディングドレス?!
「「え・・・?」」
私とミラージュはドレスルームに足を踏み入れ、目を見張った。そこは本当にドレスルームと呼べる部屋なのかと思われるほどに、何もない・・小部屋だった。人が10人も入ればいっぱいになってしまいそうな狭い部屋だったのだ。
「レベッカ様・・・本当にこれがドレスルームなのでしょうか?これではまるで使用人の部屋と同じ位の広さしかありませんよ?まさかドアプレートだけこの部屋に持ってきて入り口に掛けた可能性があるかもしれませんよ?」
するとミラージュの言葉にポーカーフェイスだったメイド長の方がピクリと跳ねたのを私は見逃さなかった。なるほど・・やはりここは本当は衣裳部屋などでは無いのかもしれない。けれど・・不思議な事に私の中にアレックス皇子に対する、ある感情が芽生えてきた。よくもこれほどまでに数々の嫌がらせを考え付いたものだ。ある意味、尊敬すらしてしまう。
そして気を落ち着かせ・・改めて辺りをキョロキョロ見渡し、気が付いた。肝心なものが見当たらないのだ。ミラージュもすぐに気づいたのか、メイド長に尋ねる。
「ところでレベッカ様が着るウェディングドレスは何処にあるのですか?そして参列者である私にも衣装が用意されると聞きましたけど・そんなものは何処にもありませんね?」
「いえ、大丈夫ですよ。こちらにありますので。」
言いながらメイド長は部屋に置かれた茶色の細長い木製のクローゼットをガチャリと開けて、中からハンガーに吊ってある2着のワンピースを取り出した。
・・・え?ワンピース?
メイド長は板の壁に打ち付けてあるフックにそれぞれハンガーを吊り下げた。そしてさっさと部屋を出て行こうとする。
「ちょっと待ってくださいっ!」
すかさずミラージュが声を荒げる。
「はい・・何か?」
メイド長は露骨に嫌そうな顔をこちらに向ける。きっとなにか言われるのが分かり切っているので、一刻も早く私たちの前から去りたいのだろう。
「何かでは無いですっ!な・・何なんですか?!これは・・どう見てもワンピースですよね?私は参列者なので別にこちらでも構いませんけど・・・何なんですかっ?!何故花嫁であるレベッカ様が・・仮にも皇女様が!ただのワンピースを着て結婚式を挙げなければならないのですかっ?!」
ついにミラージュは我慢の限界が来たのか、メイド長の首根っこを掴むとゆさゆさと揺すぶった。
「ぐぇ・・く・苦しい・・・。」
メイド長は顔が青ざめ、半分口から泡を吹いている。
「きゃああ!やめてっ!ミラージュッ!このままじゃメイド長が死んでしまうわっ!」
私が叫ぶと、ミラージュはパッと手を離した。
「そうですね。それはさすがにまずいですね。」
いきなり手を離されたメイド長は床に崩れ落ち、怯えた目でミラージュと私を交互に見つめる。
「あ、あ、あの・・ど・どうかお許しを・・わ、私はただアレックス様のご命令で・・・こちらの衣装を渡すように言われたのです・・・。あの2人はこの国に来た時にワンピースを着ていたから、結婚式もワンピースを着せてやろうと・・・。」
ガタガタ震えながら土下座するメイド長が何だか可哀そうになったので私は言った。
「あら、でもミラージュ・・このワンピース・・よく見たらとっても素敵よ?だって生地は上質な光沢感のあるサテンだし、Vネックの襟元やレースの袖なんて素敵よ?ただ丈が少し短いだけで、誰がどう見てもウェディングドレスに見えるわよ。しかもこれなら1人でも着れるから誰かの手を煩わすことは無いじゃない。ね?」
私は笑顔でメイド長を見ると、彼女は不意を突かれたかのようにハッとなり・・その後、身体を小刻みに震わせながら言った。
「皇女様・・・あ、ありがとうございます・・・。」
おおっ!この国へ来て・・・私は今、初めて『皇女様』と呼ばれた!
「いいえ、いいのよ。ね?だからミラージュも落ち着いて?」
「まぁ・・・私としてはあまり納得できませんけど・・レベッカ様がそう仰るのであれば・・これ以上言う事はありません。」
そして腕組みをしてフイと視線をそらせる。
「さぁ、この後の予定を教えて下さい。着替えた後はどうすれば良いのかしら?」
私は、メイド長に尋ねた。
「・・・」
すると少しの沈黙の後、メイド長は立ち上がると言った。
「あの、少し出てきますので・・・15分程こちらのお部屋でお待ち頂けますか?」
「え?ええ・・それは構わないけど・・。」
「あまりレベッカ様をお待たせしないようにして下さいね。」
「はい、承知致しました。」
そしてメイド長は頭を下げるとすぐにドレスルームを出て行った―。
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