第8話 豚王の珍妙な法律

 めのうを殺した後、豚王は後宮づくりに励んだ。街を練り歩いて、あれ欲しいこれ欲しいと気に入った女を片っ端から後宮に入れた。これは〈豚王の娘狩り〉と呼ばれて国民にすさまじく怖れられた。

 後宮は一万人近くに膨れ上がったが、豚王はその後一人として正式な妃を娶らなかった。だから、彼の正式な王位継承者はキャベツ姫だけである。

 豚王は女をとっかえひっかえし、面白おかしく暮らした。ときどき大臣たちに任せてある政治に首を突っ込み、〈国民総絵描き法〉やら〈軽犯罪指つめ法〉などという珍妙な法律をつくっては、国民が慌てふためくのを見てげらげら笑うという傍迷惑な癖まで持っていた。

 後者の指つめ法はかっぱらい、詐欺はもとより、立ち小便、万引き、食い逃げも許さじという徹底したもので、豚王最大の悪法として有名である。これは国民に圧倒的な不評でもって迎えられ、後に〈指なし党の反乱〉と呼ばれる深刻な事態を招くに至る。

 このように豚王は少年期を過ごし、成人した。成人しても、性格は変わらなかった。相変わらず娘狩りを続け、暴飲暴食のためでっぷりと太り、ときどき政治に口を出し、気に入らないやつを処刑し続けた。

 その豚王が突如として学問に興味を示したのは、三十歳のときである。おかかえ学者がふと口にした古代生物学の話を気に入り、世の中の神秘を解明し、知識を増やす学問とはなんとすばらしいものであるか、と突然開眼したのだった。

 彼は早速〈国民総学者法〉を公布、施行し、特に古代生物学を奨励した。折しも世界中で古代生物学がブームになっている時世で、ロンドンが講演に精を出していた頃でもあった。豚王にしてはタイムリーな立法である。

 総学者法は学問なんて大嫌いという多くの国民を閉口させたが、これによって優秀な学者が豚王国に集まるというプラス効果を持っていた。ロンドンが豚王に近づきになってやろうなどと無謀な発想をしたのは、この法律が大きく作用していた。

 吉田ロンドンは、豚王国に向かう。そこには、〈恐怖の大王〉と呼ばれる豚王と、美しく成長して〈月光姫〉との愛称を持つに至ったキャベツ姫が待っている。

 このとき、姫は十八歳。

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