第7話 豚王とめのうの結婚

 現豚王が即位したのは、彼が十一歳のときである。

 前豚王が第百六十八妃との間にやっと儲けた一粒種の彼は、あらゆるわがままを許容されて育てられた。

 父が心臓発作で急死し、取り巻きたちに手を焼かせていた少年は、幼くして大陸の六分の一を所有する超大国の王となった。以来、生まれつき全身の体毛が欠落したその異形と、きまぐれわがままな性格で国民を震撼させ続ける第十三代豚王の治世が始まる。

 政治ごっこと快楽が大好きで、彼の気に入りとなれば摂政関白も夢ではなく、嫌われれば即座にノコギリ挽きや腸引きずり出しの極刑が待っているという恐るべき王の登場であった。

 彼が即位後に初めてやった仕事は、豚王国の国民的アイドル歌手めのうを妃に迎えることだった。彼女は十六歳。

 この結婚式は即位式以上の盛大さで飾りたてられ、豚王国を狂騒の渦に叩き込んだ。

 世界一の規模を誇る豚王牧場では一億匹の豚が屠殺され、豪華料理となって国民に振る舞われた。キャベツ酒は無料にせよという触れが出されて国民は熱狂し、酒屋は号泣した。新王妃の身でありながらめのうは「さよならコンサート」と銘打って、三日三晩歌い続け、のどをつぶした。豚王と大臣たちは王城で、街の酒場で、パレードの人骨車の上で、どんちゃん騒ぎを体力の限界まで続けた。この少年王も、ロンドンと同じく酒が大好きだった。

 一週間後、狂乱の結婚騒動が終了し、やっと豚王とめのうは初夜を迎えた。

 それから一年経ち、第一子キャベツ姫が生まれた。豚王は十二歳にして一児の父となったのだ。もっともそんなことにはおかまいなしに、彼は異常なわがままと残酷ぶりを発揮し続けた。王妃が意外と退屈な職業であることに気づいて、ママドルとして歌手に復帰したいと駄々をこねるめのうを、めんどくさいと自ら刺殺し、国民を唖然とさせたのはこの頃である。

 めのう享年十七歳。

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