第9話 将棋部

 帰りのSHRが終わり、早々に教室を出ると、追いかけるように後ろから誰かがついてきた。


「今日も海に行くのっ!」


 そう声をかけてきたのはつい先日ひょんなことから、約8年ぶりに再会した柏木海音という人物。


「別に毎日行ってるわけじゃないよ、それに今日は部活もあるから行かないとな」

「部活!そういえば私も部活に入ろうと思ってたんだよねえ!」

「そうか、いい部活が見つかるといいな」

「奏太は何部なの?」

「俺は将棋部だぞ。一応部長だ。」

「え!2年生なのに部長なの?」

「ああ、3年生も1人いるんだけど全く顔を出さないから自動的に俺が部長になった。」


 俺の所属する将棋部は先輩1人、2年生が俺と、後輩が1人の計3人の部員となっている。

 うちの学校は一応3人以上いれば部として成立するのでぎりぎりセーフだ。


「決めた!私も将棋部にしようっと!」

「おいおい、いいのかよ適当に決めて」

「適当じゃないもん、私、将棋得意だもん。

 よく病院の広場でお爺さんとかお婆さんと

 将棋やって強いねって褒められてたもん」

「そ、そうか。入るというなら部長として断るつもりはないけど………」

「ん?どうしたの?」

「いや、うちの部活、結構適当だからな。

 将棋部と言ってもほとんど将棋なんてやっていない、後輩なんて将棋のルールすら知らないくらいだ。」


 俺がこの将棋部に入った理由は大まかに2つある。

 一つは週に2回しか部活がなくて、顧問も始まりと終わりにしか顔を出さないということ。その噂を聞きつけて入部を決意した。

 二つ目はただ単純に成績のためだ。

部活に入っているというだけでも内申に影響するという理由。

 決して将棋が好きという理由で入部した訳じゃない。

 多分1年の後輩も同じ理由なんだろう。


「別にいいよ、私緩い部活のほうが合いそうだし、それに私、体弱いから運動系の部活は病院の先生にもおすすめされてなかったからね」

「わかった、じゃあ部室に案内するからついてきて」

「はいっ」


 廊下を歩き、階段を下り、また廊下を歩いて部室へとたどり着いた。


「ここが部室だよ」

「じゃあ早速入るね!」

「ちょっとまてぃ」


俺は扉に手をかけた海音の腕を掴んだ。


「どうかした?」

「いや、ここはちょっと部長らしいことをしたくなってだな。俺が先に入るから俺が呼んだら海音も入ってきてくれ。」

「う、うん。わかった」


 海音を廊下に待機させ、俺は部室にはいった。

 部室に入ると、いつも俺より早くくる後輩がいた。

 ショートカットのジト目でいつも無愛想な表情をしている。

 彼女は、部室にあるお茶っ葉とポットのお湯でお茶を作っていた。

 畳には読みかけの本が置いてある。


「あ、先輩こんちゃっす」

「おう、先生はいないのか?」

「今日は出張つってました」

「そうだったな、まあいい、早速だが新入部員を紹介する。」

「え!新入部員がくるんすか!」

「そうだ、驚いただろ」

「は、はい、それはもう。」

「じゃあ入ってきてもらおう」

そう言い俺は扉を開けた。

ガチャッ。

後輩の目はいつもの無愛想なジト目と違ってキラキラしている。


そして新入部員が部室へと入った。


「き、今日から将棋部に入りますっ、柏木海音ともうします、よろしくお願いします!」


 海音は緊張しながらも、元気いっぱいといった感じで挨拶をした。


 すると、後輩と海音の目線が交互する。

 そして後輩が驚いた言わんばかりに目を見開いた。


「え!!お姉ちゃん!?」

「え!雫!?」


───


 かくして、うちの部活の後輩と海音が姉妹ということがわかった。

 言われてみれば後輩の名字も柏木だったという事を思い出した。


俺はズズッとお茶を啜り、会話を始めた。


「こいつが将棋部ってこと海音はしらなかったのか?」

「うん、雫に部活のこと聞いてもいつもはぐらかされてたから」

「そ、それは……てかお姉ちゃん、なんでこんな部活入ったんだよ!」

「こんな部活って後輩よ酷くないか?」

「そうだよ、それより聞いたよ?雫、将棋のルールも分からないんだって?」

「げっ、それは……」

「そうなんだよ、俺が教えてやるって言ってんのにいつも無視して本を読んでるんだよ」

「雫、奏太を困らせたらだめでしょ!」

「……奏太って、え!?この人!?」

「ああ、俺が奏太だけど」

「えへへ〜、まさか先輩がお姉ちゃんの恋人だったとは」

「………恋人?」

「わ、わあ!もう!何言ってるの!雫!

 奏太は恋人なんかじゃないよ!」

「え〜、だって昨日お姉ちゃんずっと先輩の話してたじゃーん、江ノ島行ったとか、手繋いだとか、やってることカップルじゃん」


 うん、そうだよな俺は間違ってなかった。

あれはどうみても恋人だよな。

 海音の『友達』という概念が狂ってただけだったんだ。


「え、えぇ、私はただ友達ができて嬉しくて、それで……奏太、もしかして昨日の迷惑だった?」

「い、いや、迷惑なんかじゃないよ、むしろ俺も楽しかったし、手も繋げて嬉しかったよ」

「ヒューヒュー、ラブラブだね〜」

「雫!怒るよ!」

「あはは、ごめんなさい」


───


 その後、海音の提案で俺と対局することが決まった。

 後輩にはルールを覚えるようにと対局を見ておくようにと言っておいた。


「じゃあ、お手柔らかにお願いします」

「ふふっ、本気でいくよ〜」


───


〜10分後〜 


 俺は海音の前に10分も経たず為す術もなく大敗を喫した。

 長年病院で研鑽をつんど海音の腕前は並の強さではなかった。


「はははっ!先輩よわーい!ボロ負けじゃん!」

「うっ、強かった。まさかこんなに早くやられるとは。」

「まあね、病院でお爺さんとかによくコツ教えてもらってたから」

「それより、後輩、ルールは覚えれたか?」

「……それは、まだ。」

「安心して、奏太。私が家でしごいておくから。」

「それは頼もしい」

「うげぇー家でまで将棋なんて嫌だよぉ」







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砂浜を歩いていたら美少女に話しかけられた ちぃーずまん @ayumu1572

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