第8話 階段での昼食

 ………それにしても自分はなにかとても恥ずかしい事をこの公衆の面前で言ってしまったのかもしれないと今更ながら思う。

自分のこのクラスの立場というのがあるにも関わらず、かなりだいそれたことをしたんじゃないだろうか。

そんな事を思っていると………

ポンポンっと後ろから肩を叩かれた。

「さっきはあの、ありがとね私のために。

 奏太がこのクラスでどうゆう状況かはわか

 らないけど私はずっと奏太の友達でいるか

 ら、というかいさせてください。」

そう、柏木さんは俺にだけ聞こえるような小声で言ってくれた。

「え、うん、柏木さんがいいなら俺は……」

「別にね、私友達がいっぱい欲しいわけじゃないからね、大切な友達が一人でもいればそれでじゅうぶんなんだから。」

「か、柏木さんっ、ありがとうっ」

あ、やばいつい声をだしすぎてしまった。

目線がまたもやこちらへと集まる。

「おーい、そこ。うるせえぞ……って君転校生か」

国語の担当の先生の平山先生が俺たちを注意すると同時に柏木さんの存在にも気がついた。

この先生は名簿とらないからな………

「はいっ!転校生っていうとちょっと語弊があるかもしれませんが、今日からよろしくおねがいします!」

柏木さんは先生に元気よく挨拶をした。

「お、おお。よろしくな」


 10分休みも、その次の10分休みも柏木さんはクラスメイトから引っ張りだこだった。

(俺の心配してたことも杞憂だったか)

まあ、なにより柏木さんに友達ができる事は俺としてもなんかこう、嬉しい。

むかしの柏木さんを知ってるからだろうか。

まあ、でも柏木さんにいい友達ができたら俺はなるべく距離を置くようにするか。


 昼休み、俺はいつものお弁当を食べるためいつもの定位置へと赴く。

場所は教室からでて突き当りにある階段を登って屋上の扉がある前でいつも一人で昼食をとっている。

屋上は入れないとみんな知っているのでわざわざここに来る人はいない。

俺が学校で唯一気楽に過ごせる場所だ。

階段に座り、朝にお姉ちゃんが作ってくれた弁当を取り出す。

(さてさて、今日はなにかな)

わくわくしながら弁当を開けるとケチャップでハートが書かれたオムライスだった。

ハートは蓋をしてたせいかグチャっと少し潰れていたがその原型はある程度保たれていた。

(ったく姉ちゃんってば、こうゆうのは彼氏にやれっつうの)

スプーンを取り出し、一口食べる。

うん。安定にうまい。

やっぱうちの姉ちゃんはなにをとっても完璧だな。

………それに比べて俺は。

頭も悪い方ではないが医者の父親と比べるとかなり劣るし、コミュ力もない、人付き合いもうまくできない、プラス根暗。

とんだ落ちこぼれだなあ。

そんな事を思いながら水筒のお茶をグビグビと飲んでいた。


 すると、一人の影が階段裏から現れた。

そいつは俺の前まできてにやりと笑った。

「そのハートマークのオムライス誰に作ってもらっの〜?」

「ぐ、ぐはぁっ!!」

やばい喉にお茶が詰まった。

「げほっ、げほっ、、はぁ」

「わわわ、大丈夫?別に脅かすつもりじゃなかったんだけど」

「ああ、大丈夫だ。それよりどうしたんだ、

柏木さん。」

ここは俺しか知らないはずなのにな。

「え、ああ、うん奏太が昼休みが始まると同時に教室出て行っちゃったから追いかけてみたの」

「クラスメイトに昼飯誘われなかったのか?」

「誘われたけど、その、奏太が気になっちゃって断ってきた」

はあ、ほんとにこいつは、もったいないことを。ここは一つ説教でもしてやらねばな。

「あのねぇ、柏木さん。」

「は、はい?」

「せっかくのチャンスを無駄にしたらいけませんよ、初日の今日がこれからの学校生活において重要になっていくんだから。

だから、今からでも戻って『あはは〜トイレ行ってたーお待たせー』なんて言えば皆快く受け入れてくれるから」

そう言うと彼女はなにらムッとむくれた顔をした。

「じゃあ奏太も私達と一緒に食べるならいいよ」

なにを言い出すかと思えば、全く。

俺にはもうあのクラスの誰一人として仲良くなれる気がしない。

仮に中よくしようとしても邪険に扱われて終わりだ。

これは噂で聞いた話なのだがあいつ(俺)と関わったやつは終わる。

というのを聞いたことがある。

それくらい俺はあの事件以降、やばい存在として確立しているのだ。

柏木さんにあの事件の事を話せば、すんなり俺の前から消えるのだろうか。

いや、分からない。

実際にあの場所にいないと感じれないものだってあるはずだからな。

「ごめん、それはできない」

俺は余計な事を言わずただ単純にできないと伝えた。

「そう、それじゃ私もここにいる。」

そう言うと階段に座り、手に持っていた弁当を開け始めた。

「後悔、することになっても知らないぞ?」

「後悔?するわけないじゃん、むしろ奏太といられなくなる方がよっぽど後悔するだろうね」

いや、柏木さんはやっぱり分かっていない。

後悔というのは体感して初めて分かるのだ。

俺にだってあの時あんなでしゃばったことしなければ。なんて大きな後悔ある。

でもその時はそれが最善と思ってやった行動だった。

故に後の後悔なんて言葉は微塵も考えていなかったのだ。

あの時の自分に声をかけれれば。

なんて何度思ったことか。

俺はそれを柏木さんにしてほしくない。

だから今。今しかないんだと思う、

俺と柏木さんの『友達』という関係に終止符をうつのは。

そう思い隣で弁当を食べている柏木さんの方を向く。

でも一つだけ聞いてみたいことができた。

「柏木さんはなんの根拠をもって後悔しないと言い切れるの?」

すると柏木さんはまじめな顔で答えた。

「大切な友達を失うのに理由なんていらなくない?」

言われて思った。

なんで俺は唯一の友達を自分から手放そうとしていたんだと。

確かに昨日会ったばかり(実際には8年ほど前に会ってる)だけど友達は友達だ。

一緒にいて楽しかった。

俺の事情とかなんてどうでもいい。

俺を友達と思ってくれるこの子を大切にすればいいのだ。

「ありがとう、柏木さん」

「え、、?よくわからないけど、どういたしまして?」

こうして俺たちは互いに友達と認め合う事ができた。

「あ!もぐもぐ、あと私のこと、もぐもぐ、そろそろ海音って、もぐもぐ、呼んでよね

友達なんだから。もぐもぐ」

「ちゃんと食べきってから話せよ、まあわかったよ、これからもよろしくな海音」

「えへへ、よろしく奏太」

「うん」

「そうだ、記念にこのたまご焼きあげるよ。

 ほら、あ〜ん」

海音はたまご焼きを箸でとり俺の口元へと持ってきた。

「え、いやそれはさすがにはずいって」

「遠慮しないで、友達なんだから普通でしょ?」

やっぱり友達という感覚がバグってるのではないだろうか。

仕方なく俺はぱくりとたまご焼きを食べた。

うちの姉ちゃんが作るしょっぱめのたまご焼きとは違いほんのり甘かった。












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