第7話 修羅場
俺は考えた。
柏木さんの自己紹介が終わり、先生に指定された席(俺の後ろ)へと歩いてくる間に。
そして俺は答えを決めた。
俺と柏木さんの関係はなかったことにしようと。
理由は簡単だ、俺が柏木さんが友達というだけであっても、それはおそらく柏木さんの望む学校生活が壊されてしまう可能性があるからだ。
柏木さん学校生活の上でクラスで浮いている俺は邪魔な存在となってしまうのだ。
故に答えはでた。柏木さんが俺の後ろの席に座ると同時に俺は柏木に声をかけた。
「先程、俺の事を友達と言っていましたが俺はあなたの事をしりません。人違いではないですか?」
そう言った。あからさま距離の感じさせるような敬語で。
すると柏木さんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をし、俺の言った言葉が理解できずにいるようだった。
「え、い、今なんて??」
やはり理解できなかったのか、それとも理解したが確かめるためかそう聞いてきた。
「だから、俺はあなたをしりません。」
今、俺がやっていることは最低だとわかってる。でも俺と関わることでもっと最低な結果にならないようにここで短い間だったが関係をなかったことにするしかないのだ。
当然ながら俺と柏木さんが話しているのを見てクラスの大半が俺たちに目がいき、そわそわとし始める。
「知らないって、そんなはずないじゃん、今朝だって一緒に登校したし……」
「あなたはさっきから何を言っているのですか?なんども言いますが俺はあなたの事をしりません。あと、俺に関わらない方がいいですよ。」
そう俺は敢えてクラス中に聞こえるような声量で言った。
柏木さんは啞然とした表情をしていた。
俺はそれに目もくれず前を向いた。
その異様な空気を感じとった漆原先生がなんだかんだ仲良くやっていこうとクラスをまとめあげ朝のSHRは終了した。
SHRが終了し、先生が教室をでていくとクラスの半数近くの生徒が俺の周りに集まった。
いや、正確には柏木さんのまわりか、複数の女子に囲まれ、髪を撫でられたり、自分の名前を言ってる人もいる。そして俺との関係について聞いているやつもいた。
「お前、転校生の子とどういう関係なんだ?」
とクラスの男子生徒の一人、国山大河という人物が声をかけてきた。
こいつは、中学校三年間同じクラスだったがこれといって接点はない。だが、かなりのDQNで先生も手を焼いていることは知っている。
「なにも関係ないって」
「はあ?じゃあなんでお前の名前知ってたんだよ?」
と苛立ちの溢れた感じで迫ってくる。
「そんなの分からないよ」
「あんまりはぐらかすと痛い目見るぞ」
そう言い、座った俺の胸ぐらを掴んできた。
それにしても、なぜこいつはここまで俺に突っかかってくるのだろうか。
俺はこいつに恨みを買うようなことはしていない。こいつには。
もしかしてあれか、こいつ柏木さんに一目惚れして、柏木さんが俺と友達と言ったことに腹を立ててるんではないだろうか。
そんなことを考えてると段々と首元が苦しくなってきた。
くそ、かくなる上は、とそう思い右手の拳を握りしめたときだった。
「やめてよ!」
そう言い俺の首元を掴む手を払ったのは柏木さんだった。
柏木さんは俺の前に割って入り国山を睨みつける態度をとった。
「けっ、お前のそうゆう態度気に食わねぇんだよ」
そう国山が捨てゼリフを吐き教室からでていった。
はて、ほんとに俺なんかしたっけ。
「女子に守ってもらうとかダッサ」
そんな声も聞こえてきた。
声の方を見ると神奈木葵だった。
それにしても俺の作戦は一瞬で崩れた。
俺との関係をなくせば柏木さんは和気あいあいとした学校生活が送れる。
あの時のような思いをしなくて済むのだ。
だがここまで盛大に俺の前に立たれては関係がないと説明する方が難しい。
俺は意を決した。
「みんな、聞いてほしい。確かに俺と柏木さんは昨日たまたま会って友達になった。
こうやって守ってくれたのも俺のことを友達だと思ってくれてるからだと思う。
だけど勘違いしないでほしい、柏木さんはこのクラスで俺がしでかしたことを知らない。
俺がこのクラスで異分子だということも、
だから、みんな彼女と仲良くしてやってほしい。彼女の始めての学校生活をいいものにしてあげてほしい。」
恐らくこの学校にきて一番の長文だっただろう。一番長く人に言葉を発した。
「始めての学校生活ってどういうことなの?転校生とはなにか違ったりするのかな?」
そう言ってきたのは同じクラスの女子、桜井茜だった。
彼女はおっとりとした感じの口調で俺に(多分)質問してきた。
俺は全て話した。
柏木さんの許可も取らずに勢いそのまま話しだした。その方が良いと思ったから。
柏木さんが小さいころからずっと病院生活でほぼほぼ学校に行ったことがなくて、友達というものに憧れていてたまたま昨日会った俺と遊び、友達になったこと。
「────だから俺のことは関係なく柏木さんに最高の学校生活を送ってもらいたい。
だから、みんな仲良くしてやってほしい。」
と俺は赤裸々に全てを述べた。
柏木さんを見てみると、潤んだ目で「ありがとう」と呟いていた。
「フッ、お前その子のこととなるとかなり必死じゃねえか、そんなにその子のこと好きなのかぁ?おい、」
そう突っかかってきたのは俺が停学となり、このクラスで浮く原因ともなった相手。
渡辺篤哉(わたなべあつや)という男だった。
「別に、俺はそんなんじゃ、ただ、俺は………」
こいつが出てくると俺は萎縮してしまう。
俺が勝ったはずなのに俺はこいつに恐怖を覚えてしまう。
「え??俺はただなんだって??」
「なんでも……ない」
「あんまイキがるんじゃねーぞ」
キーンコーンカーン………
鐘がなり、担当授業の先生がきてなんともいえない空気のまま授業が始まった。
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