第6話 クラス
校門を通り俺と柏木さんは学校へと入っていく。
柏木さんの横顔は活気に溢れていた。
先程聞いた話なのだが本格的に学校に通うことになるのは今日かららしい。
小3の頃、一回学校に来た以降は症状が悪化して小学校も中学校もドクターストップをかけられ、ほとんど学校に行けなかったという。
学校に行ってただ一つ記憶に残っているものはあの辛い経験だけだった。
だけどある男の子のおかげでもう一度学校に行ってみたいという思いができたらしい。
だからいつでも学校に行けるように体調のいいときはずっと勉強していたし、リハビリも周りが驚くような早さでこなしていたという。
そして、退院し途中入学の試験にも合格し無事今日から学校に行けると、電車から降り校門につくまでの間に柏木さんは語ってくれた。
校舎に入り下駄箱で靴を履き替えると柏木さんはすぐ隣の下の段の下駄箱に靴を閉まっていた。
ここの列の下駄箱ってことはもしかして俺と同じ2組?
「そういえば、柏木って何組に………」
「そうだ!職員室寄ってかないと行けないんだった、先行くねっ!」俺がそう聞くと同時に柏木さんの声にかき消され、さっそうと職員室へと向かっていった。
クラスへ入るとなにやらガヤガヤとしていた。
俺の停学明け以来、いつもなら俺がクラスに入ると冷たい視線が集まり、聞こえるか聞こえないかくらいの声量で小言を言われるのだが、今日はそれはなくみんななんかの話題に夢中になっていた。
窓際の自分の席につき、クラスメイトから聞こえる会話に耳を傾けると"転校生"という言葉がよく耳に入ってくる。
「今日から来るんだよな転校生」
「確か女子だよね美人だといいな〜」
「美人だって噂だぜ〜」
なんて会話が聞こえてきて確信を持った。
柏木さんはこのクラスに来るのだと。
おまけに俺の席の後ろに一つ空席がある。
確か、昨日まではなかったはずだ。
でも、なんで俺は知らないんだ?
クラスの話題は恐らく転校生(柏木さん)のことでもちきりなのに、同じクラスの俺が知らないはずが………
あっ、そういえば昨日のSHRの時いきなりクラスが騒がしくなったっけ。
俺はその時、寝ていたから先生が言ってたことを聞き逃していたのだろう。
そして学校が終わり、そのまま海へ行った俺は柏木さんと出会った。
という流れだろう。
朝のチャイムが鳴ると同時に担任の漆原先生が入ってきた。
その後ろを一人の女子生徒がついて教室へと入ってきた。
その瞬間クラスの男子生徒の歓喜に溢れた声が響き渡る。
「めっちゃかわいいくね?」
「すげー美人!」
「おれ、告っちゃおうかな」
などと聞こえてくる。
「えー昨日も言った通り今日からうちのクラスに新しい仲間が増える。
では、自己紹介をお願いね。」
と漆原先生がそう促すと女子生徒は緊張した面持ちで自己紹介を始めた。
「今日からこの学校に通います、柏木海音です。えと、漢字はうみにおとって書いて海音と読みます。よろしくお願いします。」
そう、下を向きながら声はやや低めという感じでそう言った。
昨日砂浜で俺に言ったのと同じようなフレーズだった。
だが、昨日俺に話しかけた時のような活発さはなく少し縮こまった感じの挨拶だった。
やっぱり緊張しているのだろうか。
まあ、そりゃあ一人と大勢じゃ緊張度合いが違うのも当然か。
それに柏木さんには過去のトラウマもあるから実際にクラスという雰囲気を目の当たりにしてあの時のトラウマを思い返してしまったのかもしれない。
けど今の柏木さんならきっと友達もつくれてうまくやっていける気がする。
「よろしくー!」「よろしく!」
「よろしくね、海音ちゃん!」
結構クラスの掴みはいいようだった。
やはり、かわいいからだろうか。
クラスのほとんどが柏木さんへと笑顔で挨拶を送っている。
それに気づいた柏木さんはパッと笑顔になり顔をあげて、「よろしくおねがいします!」
と元気よく言った。
そして顔をあげクラスを見渡してる柏木さんと目があった。
柏木さんは俺に気づくと小さく手を振ってきた。
するとクラスのやつが俺の座る席あたりを一斉に向いた。
「誰に手を振ったんだろ」
「知り合いでもいるのかな」
とクラスのやつがボソボソと言い始めた。
「ねえ、海音ちゃん今誰に手を振ったの?」
とクラスのイケイケグループ的なリーダーの神奈木葵(かんなぎあおい)という生徒が柏木さんに聞いた。
こいつは俺のこと最も嫌ってるやつの一人だと思う。
「奏太だよ、ほら窓側の奥のほうの」
あちゃあ、まずいなこれは。
やはり念の為言っておくべきだったか、
俺のクラス内の立場を。
場合によっちゃ柏木さんの学校生活を壊しかねない存在だということを。
クラスは喧騒に包まれ、視線が俺一点へと集まる。
「知り合いなの?あいつと」
呼び名は"あいつ"嫌われてることがよくわかる。
「そうだよ、昨日会って私の始めての友達」
とクラスの喧騒などお構いなしに柏木さんは淡々と答えた。
「そ、そうなんだ」
クラスは一瞬で静まり返り俺への視線が容赦なく降り注ぐ。
先生がいるからか、クラスメイトからの俺への言葉はなくただ冷たい視線が刺されるだけだった。
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