第3話 大内襲来
主な登場人物
龍造寺家兼 …康家の五男 主人公
龍造寺康家 …龍造寺家当主
龍造寺家和 …康家の次男
龍造寺胤家 …康家の長男
少弐政資 …龍造寺家を傘下に置く大名、少弐家の当主。
千葉胤資 …西千葉家当主。少弐政資の弟
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少弐政資の積極的な軍事行動は、ついに大内氏を本気にさせた。
「政資は勘気の身でありながら、弓矢を
大内氏は、前将軍でこの時北陸に逃れていた足利
これを受けて義尹は少弐討伐の命を下したのだった。
明応五年(1496)十二月十三日、山口を出発した大内勢は
率いたのは二年前に当主の座に就いたばかりの義興。この時弱冠二十一歳の若武者だった。
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北九州は風雲急を告げた。
大内襲来の一報を知った政資は、家臣達に急ぎ迎撃の体制を築くよう指示。しかし初動の段階で壁にぶち当たっていた。
「ええい、対馬の宗氏は何をしておるのだ! 大内先陣はもう九州に上陸しておるのだぞ! 動きの鈍い近隣の国衆共も急がせよ!」
「すでに宗氏には、何度も使者を遣わしておりまする。しかし未だ承諾がござりませぬ」
対馬の宗氏は、長年少弐氏を支えてきた一族であった。そのためその戦力を政資は頼みとしていたのである。
彼は催促の使者を何度も遣わしたものの、宗氏の当主
加えて傘下の国衆達の中には日和見を決め込む者がいたため、政資は軍をまとめる事すらままならなかった。
さらに数日後、伝令がもたらした報せは少弐陣営を驚愕させた。
「申し上げます。大内勢すでに筑前に入った模様。その数二万!」
「二万じゃと!」
大内が本気で少弐を潰しに来ている── 政資はそこでようやく悟った。
しかし目の前には絶句している家臣達がいる。その目の前で弱腰な振る舞いを見せるわけにはいかず、彼は精一杯の虚勢を張った。
「何じゃ何じゃ、どいつもこいつも腑抜けた顔をしおって! 是非も無し、我ら手勢だけで打ち破ってくれる。出陣じゃ!」
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明応六年(1497)正月、筑前穂波郡にて少弐勢は、ついに大内先陣と交戦を開始。
始めは一進一退の攻防が続いた。しかし数に勝る大内勢が次第に優位となったため、少弐勢は大宰府へと撤退。
さらに大宰府近くの御笠郡筑紫村と城山にて交戦し、ここでも少弐勢は敗れたため、ついに大宰府を放棄せざるをえなくなった。
この時、政資は息子高経を同行させていた。そのため敵の襲撃を受け親子共に討死した場合、少弐の血脈は絶えてしまう。それは避けねばならない。
親子は別行動を取った。政資は大宰府から約二里と少々(約8.5キロ)西ににある岩門城へ。
高経は筑前、筑後の国境付近に勢力を持っていた肥前国衆の
しかし家紋大内菱を印した旗を高らかに掲げ、俄然勢いに乗る大内勢は止めようがなかった。
大宰府を奪われた後に岩門城は襲撃を受け、少弐一族十数人を含む大半の兵を討ち取られて陥落。
さらに別動隊により勝尾城も包囲され、城主筑紫満門は降伏へと追い込まれた。
少弐親子はたまらず肥前を西へ西へと逃亡。ともに政資の弟
これに対して大内勢も肥前入り。
少弐傘下だった肥前国衆達はその大軍を前に、借りてきた猫の様に大人しくなったため、難なく東部の
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事態は龍造寺家にとって対岸の火事ではなくなった。
この時、
新たに当主となっていた長男
「西千葉に援軍を出したい⁉ 正気でござるか兄上、滅亡を待つばかりの少弐に今更肩入れするとは!」
「家和、少弐がままならない状況なのは分かっておる。されど西千葉だけでも助けたいのだ。当家は長きに渡りあの家と
肥前東部の小城郡に巨大な勢力を張る千葉氏は、肥前国衆の中核的存在だった。
鎌倉時代には肥前国内の地頭職を束ねる立場にあり、室町時代にも在国しない守護職の渋川氏に替わり、その役割や地位を担っていたのである。
しかし戦国時代に入り、御家騒動に土一揆が加わる内乱が勃発。
家は傍系の東千葉家、本家の西千葉家に分裂し、勢力を失ってしまう。
その最中、西千葉当主の
これを好機と見た政資は西千葉家に介入。弟の胤資に胤朝の娘を娶らせ、当主に迎えさせていた。
「しかし政資の弟が当主である以上、西千葉は少弐と同じ命運でござる。家中の者もほとんどが納得致しますまい」
「家中の者ほとんど……そうか。家兼どうじゃ、そなたも家和同様、やはり反対なのか?」
「大内の先手には降伏した筑紫満門。さらに東千葉勢も合流したとの報せがあり申した。残念ながら戦力差はもはや歴然。ここに士気の揚がらぬ我ら小勢が駆けつけたとしても、焼け石に水でござる」
「胤家、そなたこの家と西千葉とどちらが大事なのじゃ? 我らが大内に抵抗すれば、奴らが大軍をこの城に差し向けてくるやもしれぬのじゃぞ。ならば西千葉を助けるという選択肢はあり得ぬではないか」
父康家の切迫した問い掛けに、情義を重んじる胤家は口をつぐむしかなかった。彼は暫く
「……分かり申した。家のためでござる。こたびは出兵を見合わせると致しましょう。されど──」
胤家はそこで苛立ち混じり溜息をつくと、皆から顔を背けて告げた。
「されど、何とかして差し上げられぬものか……」
そして明応六年四月十三日、西千葉家はついに運命の日を迎えた。
大内の大軍に拠城の晴気城を包囲されたのである。
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