【義妹SIDE】カレンを街中で偶然見かける
その日、カレンにとっての義妹ローラは休日という事もあり母と一緒に街中に出向いていたのである。
休日も何も、二人は家事などの雑事の一切を使用人に放り投げているので、別段休日も何も存在しないのだが。
二人は上機嫌であった。ローラからすれば父が幼い頃に貰ってきた他所の子。つまるところはカレンの事ではあるが。昔の恩人の子供だか、なんだかは知らないが、他人の子供には違いない。血縁関係などないのだ。
彼女を養っていたのは仕方なくに過ぎない。ローラ達からすればすぐにでも出て行って欲しかった。最悪野たれ死んだって構わない。
厄介払いができたと二人は手を叩いて喜んでいた。あの悪名高い吸血公爵の屋敷に生贄として捧げられるという事はどういう事なのか。
流石の二人も理解できていないはずもない。だがあの時二人はカレンの心配など微塵もしていなかった。
生贄が捧げなければスペンサー家に呪いがかけられるという事の方が問題だったのである。呪いがかかる事態をいかにして回避するか、それはもう生贄を捧げるより他にない。
生贄としてうってつけの人物はカレンだけであった。若い娘という意味ではローラも適合者ではあったろうが、当然のように血のつながった娘を犠牲にする母などいるわけがない。
血の繋がっていない他人の子供の方が犠牲にするんだったらうってつけだったのだ。
ちょうど邪魔だと思っていたところだったのだ。厄介払いもかねて、呪いがかけられるのも防げる。
つまりは義妹ローラとその母――カレンにとっては義母である。二人にとってとても都合のいい選択だったのである。
だからカレンを生贄として犠牲にした事に対して二人は一切の後悔も申し訳なさもなかったのである。
あるのはせいぜい爽快感くらいか。せいせいしたという事だ。
だからその日、二人は粗大ごみ(無論、カレンの事である)を捨てられたとして、晴れ晴れとした気持ちで街まで向かったのである。
そして高級なレストランで豪華な食事に舌鼓を打っている。
「ふふっ……お母さま」
「ん? 何? ローラ」
「このお料理とってもおいしいですわ……いつもおいしいものを食べてはいますが、猶更おいしく感じます」
「そうね……その通り。いつもよりおいしく感じるわ。それはなぜかしら?」
「そんな事は決まっていますわ。お母様。やはり私達の心が晴れ晴れとしているからに決まっていますわ」
ローラは笑みをもらす。
「まあ、その通りね。心が軽いと料理もおいしく感じるわね。でも不思議ね、なぜこうも心が軽いのかしら」
理由はわかっているだろうに。母は醜悪な笑みを浮かべる。
「そんなの決まっていますわ。お母さま。あの邪魔者。お荷物のカレンを追い出せたからですわ。ふふふっ」
ローラは笑みを浮かべる。追い出した――と言っているが実際のところは吸血公爵のところに生贄として捧げたに過ぎない。呪いがかけられる事態を回避したいが故に。
しかしその事をそのままいえばまるで自分達が悪人のように感じる。実際のところ悪人のようなものではあるが、二人は断固としてそういう考えには至らなかった。回避したかったのだ。自分達に非や落ち度がある事を。目を背けていたかったのである。
すると、その時であった。何となく外が想像しい気がした。
「ん? お母さま」
「どうかしたの? ローラ」
その時、見間違いかと思った。窓からカレンの姿が見えたのである。しかも隣に美しい男を引き連れてである。金髪をした絶世の美男子。
それなりの名家の令嬢であるローラをもってしても手が届かないであろう高嶺の花。そんな好条件の相手を隣に連れて、カレンが街を歩いているはずがない。ローラはそう思っていた。
だが、何となく、気になったのだ。心に引っ掛かりができていた。
「お母さま、お料理も食べ終わりそうですし。外にいきません事?」
「ええ……構わないけど」
こうして二人は再び街中へと出て行ったのである。
生贄令嬢、なぜか冷酷な吸血公爵閣下に溺愛される~義妹が代わって欲しいとせがんでくるがもう遅い~ つくも/九十九弐式 @gekigannga2
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