26話 「決闘」 急
「今から見せてやるよ。千尋。手札から『詠唱短縮』を発動。手札一枚を裏向きのまま後衛に出す! 『大盾兵』で『レオン』を撃破してターンエンドだ」
僕の撃破カウントは三。まだ余裕はある。するべき事は、戦力増強だ。
「僕のターン! 『リロード』の効果で手札は七枚になる。更に、スペルカード『決死隊』を発動。撃破カウントを一増やして、デッキから任意の佐官カードを召喚できる」
「それで大盾兵は倒せないぞ千尋」
「まぁ見ていてくださいよ。僕は『ベルフ・アキレウス』を召喚! 効果により戦場の特殊効果を一つ、その場で使うことができる!
『詠唱短縮』を発動! 手札を一枚後衛ゾーンに出す。そのまま『魔術兵装の指輪』をベルフに装備させる。攻守は9/17になる。
僕はベルフ、ジェームズ、グラップの順で『大盾兵』を攻撃!」
「ジェームズを犠牲にした作戦か……」
「好きなキャラでも、勝つためなら仕方ありません。ベルフは攻守9/12。撃破カウントは僕が四・五。先輩は五です。ターンエンドです」
これで大盾兵は撃破。先輩はここからどうやって僕に勝つと言うのだろう。
ちなみに僕が伏せたカードは『援軍要請』。間接ユニットをデッキからサーチできる効果を持っている。
「見てな! 俺のターン、ドロー! まぁこれが来るってわかってるからな。興奮も何も無い」
一人で先輩は何をやってるんだろう。
「俺は手札から『クイックリロード』を発動! 山札から三枚ドローする。
そして、手札よりスペルカード発動! 『古戦場に漂う怨霊』自分の撃破カウントを五にすることで、効果を発揮する!」
『古戦場に漂う怨霊』? そのカードの効果を聞いた事は無い。確か、自傷ダメージを追うことで強力な効果を発動できるはずだが。
「効果は、相手ターンの初めに撃破カウントを一増加する力だ」
「な、何だって!?」
毎ターンに撃破カウントが増やされるのか! 勝ち目が無い……訳でもない。僕の『ベルフ』は9/12。並のユニットじゃ相手にならないはずだ。
「更に! 撃破カウントによる条件達成で手札から最上級ユニット『最後の番人』を召喚!」
最後の番人。原作には当然いないユニットで、攻守5/20の完全守備型ユニットだ。戦闘時に相手の数値強化を無効にして、戦闘ダメージも二減ってしまう。
守備カードの中でも、撃破カウントが五以降に召喚できる。まさに鉄壁。逆転のためのユニットだ。
「まだ終わらない! 俺は『詠唱短縮』によって伏せていたスペルカード『殿の意地』を発動!近接ユニット一体を残し、残りのユニットを手札に戻す。そして、残った近接ユニットの攻守を倍増させる!」
「倍増!? 」
攻守10/40だと、そんなの、太刀打ちできねぇ! 素の攻撃でベルフよりも上だ。
「その代わり、『古戦場』の効果で『番人』は攻撃できない。ターンエンドだ。
……千尋。俺の勝ちだな。後は『古戦場』がじわじわカウントを増やしてくれる」
「「楠選手! 完全にロックされてしまったぞ!!」」
「「かなりまずいですね。番人を戦闘ロストさせることは非常に困難です」」
「「では、効果での破壊でしかないのでは?」」
「「そうしたいのですが、最上級ユニットを対象とする破壊カードは現状ほぼありません」」
「「もう負けじゃないですか!」」
悲壮感ある実況解説。そのリアリティで、まるでこの勝負が全ての決着かのように思えてくる。
「……僕のターン」
「ドロー前に『古戦場』の効果発動! 撃破カウントを五・五に増やす!」
「くっ、ドロー!」
撃破カウントがこのまま増やされると、あと二ターンで負けてしまう。そんなのは到底納得できない!
ドローしたカードは『副隊長 エミリー・パーストック』だ。間接ユニットで、登場時に手札に『撤退指示』を手札に加えるカードだ。しかし、『不運な男 ダグラス』が場に出ていないと召喚できない。
残りのカードは伏せている『援軍要請』と『ジェームズの覚悟』だ。『援軍要請』は山札から、間接ユニットを手札に持ってこれる。
『ダグラス』は火竜の攻撃を受ける盾となれるカードだ。まだ竜人が揃っていない今は弱いけど、これから日の目を見そうなカードだ。
『ジェームズの覚悟』は場に『新兵 ジェームズ・フレグランス』がいて、自分の撃破カウントが相手より多い場合、ジェームズをロストして相手と自分に撃破カウントを一加算する。
勝ち筋は見え始めているが、まだ足りない。
全てを覆す「あのカード」が。
「僕はマスタースペル『魂のドロー』を発動! このゲーム中、一度だけ発動可能なスペルで、山札からカードを一枚ドローできる!」
「「魂のドローです! 楠選手、隠し球を持っていました!」」
「「マスタースペルは相手には開示されませんからね。守備型デッキと聞いて急遽投入したのでしょう」」
暖めておいたドローカードを使うタイミングは今しかない。このカードは撃破カウントが増えた後でしか使うことができない。
必然的に、戦闘後の使用になる。
だが、『古戦場』のおかけで、このカードが持つ意味が変わった。戦闘前に、戦局を変える一枚を、引き当てることができるかもしれないのだ。
「結局、運に委ねる形になっちまったな」
天を仰ぎ、目を閉じる。この戦いで散っていった数多の仲間が、親指を立てて微笑んでいるのが見えた。
「……ドロー!」
引いたカードは――。
「……勝った」
いくぞ、反撃開始だ。ここからは詰将棋。順番を間違えたら一発で負ける。判断を間違えるな。
「この状況でどうやって勝つんだ? 強化無効で盾も持つ『番人』は二ターンじゃ倒せないぞ!」
番人は倒す必要はない。倒さずに、相手の力を利用する! スペルカードから順に、間違えるな!
「まずは僕は、前のターンに伏せていたスペルカード『援軍要請』を発動! デッキから『不運な男 ダグラス』を加えて、召喚! 特殊効果により、『エミリー』も召喚する!」
「「撤退指示コンボだ! 楠選手、ここで原作再現コンボを発動させました!」」
「「撤退指示コンボとは?」」
「「原作で、火竜に遭遇した際、ダグラスとエミリーが共同して指揮を取ったんです。そのシーンの再現がされています」」
「「なるほど、つまり?」」
「「激アツってやつですよ!!」」
盛り上がる実況解説。ホールは四人しかいないのに大盛り上がりだ。まるで自分が何かの大会に参加しているようで、気分の高揚を抑えられない!
「『エミリー』の効果で、山札から『撤退指示』を手札に加える。そのまま発動! 僕は戦場の近接ユニット『ベルフ』を手札に戻す」
『撤退指示』は、近接ユニットの入れ替えカード。少なくとも、このゲームのプレイヤーはそう認識している。だが、カード効果には、どこにも「同じユニットを出してはいけない」と書かれていないのだ。
つまり、ユニットを出して戻すだけ。それじゃ意味が無い? 違ぇ。今手札に戻したカードには、勝つための算段が既に記されている。
「『撤退指示』の効果により、手札の近接ユニットを召喚する。僕のカードは、『ベルフ・アキレウス』だ!」
「何!? 戻したベルフをまた出すのか!?」
先輩が驚く。手札に戻した時点で、コピーした『魔術兵装の指輪』の能力は失われ、攻守は元に戻っちまっている。
番人を倒すと思っている先輩には、多分次のこれでわかるだろ。
ベルフには、出したときに任意の効果をコピーする力があんだよ!
「『ベルフ』の効果発動! 戦場にあるカードの効果を一つ任意でコピーできる」
「……まさか!」
「今更気づいても遅いですよ! 僕がコピーするのは、先輩の場にある、『古戦場に漂う怨霊』の効果だ!」
僕の撃破カウントな五・五。先輩のカウントは五。問題なく使うことができる。そしてその効果により、次のターンに先輩も撃破カウントが加算されることになる。
「やるな千尋。コピーしてこちらにも加算させるようにするとは! だが、まだ負けてないぞ! 次のターンで『ベルフ』を攻撃すれば、俺の勝ちだ!」
「いや! このターンで決めますよ! 慧先輩!」
僕が引いたカード。それは、『再生薬』。文字通り墓地のカードを好きに復活させるカードだ。
僕が復活させるカードは。もちろん決まっている。『新兵 ジェームズ・フレグランス』だ。これを使って、このゲームを終わらせる。
「僕は手札よりスペルカード『再生薬』を発動! 墓地のユニット『新兵 ジェームズ・フレグランス』を後衛ゾーンに召喚する!」
墓地エリアから光を発し、黄泉の国より舞い戻るジェームズ。能力は初めに出したものと変わらないのに、なぜか僕には彼が強く、力強く見えた。
「手札より最後のスペルカード発動! 『ジェームズの覚悟』!! 自分の撃破カウントが相手より多い場合、発動可能! 『ジェームズ』を墓地に送ることで、自分と相手の撃破カウントを互いに一増やす!」
これで僕の撃破カウントは六・五。先輩の撃破カウントは六だ。そして僕の場にあるベルフの効果で、『古戦場に漂う怨霊』が先輩にも適用されている。
つまり、これで――
「……僕の勝ちだ」
「「ゲーム終了おおおぉ!! 古戦場と番人のロックコンボで完全に詰んだかと思った状況をひっくり返しました!!」」
「「これには拍手です。盤面を利用して、ピンチをチャンスに転じました」」
「「ここから楠選手のゲートマスターとしての道が始まるんですね!! 細田さん!」」
「「はい。私も彼と戦うのが楽しみで仕方ありません」」
興奮を隠さない実況解説。リアリティと言うより、完全に場の空気に酔っている感じだ。でも僕も、その空気に支配されつつある。
高揚が止まらないのだ。
「お疲れ様。凄かったよ千尋」
慧先輩が声をかけてくる。先輩というよりも、宿命のライバルのように思えてきたのだ。
「先輩のデッキ。凄かったです」
「正直、ロックしたときは勝ったと思ったよ」
「僕も負けたと思いました」
コイツ。と小突いてくる先輩。こうして笑いあってるところがライバルっぽい。いや、僕らはライバルなのだ。そして、これからのゲートマスターとしての戦いは、まだまだ続いていくのだ。
「先輩。これからも勝負、よろしくお願いします」
「あぁ、望む所だ!」
固い握手を交わす僕ら。先輩としばらく戦うことはないけど、次にやるときが本当の決着だ。
それまでに、更に強くならなければならない。実況解説の嗚咽交じりの拍手も聞こえてくる。
なんと言うか、ホールという閉鎖空間に漂う中二の空気が、閉じられたことで濃くなっていた。
「……お前ら、何やってるんだ?」
足利先輩の登場で、その濃い空気は霧散して行った。
後に残るのは、死ぬほど恥ずかしい「やっちまった感」だけで……。
「は? 何で顔隠してんだよ? オイ?」
しばらく続く足利先輩の質問に、僕らは何も答えることができなかったのである。
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