13話 「グレイテスト・ダンサーズ」
あの後駆けずり回って牧園さんを見つけて、藤林という人が職員用トイレで倒れてると伝えた。それを聞いた牧園さんは血相を変えて、叫びながらどこかへ消えていった。
あの迷惑をかけられ慣れている姿に、僕は思わず親近感を覚える。多分だけど、仲良くなれそうな気がした。話題には事欠かないだろうし。
当然僕は叫びながら走り待ってたので、もう既に来ている事情を知らない他校の生徒の訝しんだ目に晒されていた。ただでさえ女装疑惑が広まっているのに、別の学校で大声で走り回るなんて思われたら、もう完全におかしい人間扱いになってしまう。まだギリギリ大丈夫、そう信じたい。
「さっきから何馬鹿な事やってんのよ」
雨宮も事情を知らない一人だ。その心底バカにした声にムカつき、口が勝手に反論してしまう。
「うるせぇな。職員用トイレに行ったら人が倒れてたんだよ。で、その人のご指名があった牧園さんを探してた」
「どうだか」
この女……。僕は珍しくコイツの前で真実を言ったのに、論破できないと見ると勝手に切り上げて僕が負けた空気を出しやがった。小賢しい。
レスバで勝てないなら挑んでくるなよな。
「千尋、誰が倒れてたんだ? ……もしかして、京也か?」
足利先輩が、これまた珍しい神妙な顔つきで尋ねてくる。僕がそうだ、と答えると険しくも呆れた顔で戻っていってしまった。
今僕らは第一ホールに居るのだが、割と他校の生徒も集まってきている。公立なのにブレザーの紅葉高校が、割と目立っている気がする。なんというか、品がある。偏差値って雰囲気にも出てくるものだったか?よくわからん。
もう少しで始まるところに、さっきの牧園さんが戻ってきた。
「やぁ、楠くん。さっきはありがとう」
「いや、藤林さんが大丈夫ならそれでいいです」
とりあえず藤林は無事らしい。なんでも、今練習している舞台の役がそれなりに体力気力がいるやつらしい。身体壊したら本末転倒だと思うが。もう一度、牧園さんは僕に感謝を述べてから、第一ホールのステージ側に戻って行った。
そして、総会が始まって、僕はまた驚かされる事になる。
ホールの照明が消え、当たりが真っ暗になる。少し前回の事を思い出してえずきかけるが何とか堪えた。あぶねぇ。
ステージの中央にスポットライトが当たり、その左右からスモークが吹き出した。そして、辺り一面が白くなったところで、誰かがそれを払う仕草をする。するとあれだけ白かったスモークが嘘のように消え、ステージには藤林が居た。
エネルギッシュで、活力に満ちている。
え? さっきまでとは打って変わって健康そうなその姿に驚愕する。牧園さんを呼んでからそこまで時間は経っていない。……まさか、演技なのか? 身体が震えているのがわかる。
「お集まりの皆々様! 桜花学園にようこそおいでくださいました! 今日一日、どうかよろしくお願い致します!!」
その言葉を合図に、照明が僕らを向く。すると、そこから何人かの生徒がステージへ飛び出した。皆衣装を着ていて、舞台上で様になっている。
そして、ライブかと勘違いするほどのステージが始まった。桜花学園男子陣によるダンスステージ。まさしくこの総会のオープニングの為の物だろう。僕の右手にはいつの間にか持っていたペンライト。ふと周りを見ると、皆一様にライトを振っている。
……僕もこれにノらなきゃ嘘だよな。しばらく全て忘れて、ショーに没頭することにするか。
軽快な音楽、それに合わせて踊る桜花のダンスチーム。よく曲はわからないけど、多分洋楽だ。一曲分踊りきると、一列に並んで礼をする。僕を含めて皆歓声を上げて、この感情をぶつけた。
そして、礼が終わるとなぜか曲が始まる。舞台上の人達も困惑し、一気にそれが僕ら観客に伝わった。アクシデントか? 一瞬我に帰り始めたところで、ステージにあった照明が脇の扉に集中した。
自然と観客の視線はそこへ向かう。そして、曲のビートが最高潮になったところで、扉が開いた。
現れたのは桜花学園女子陣。一気にステージへとかけ登り、男たちを後ろへ追いやって踊り始めた。先程とは異なる重低音が響く曲。男子のダンスが軽めの一体感を得るためのものとするなら、こちらは圧倒的なテクニックで魅了するタイプのものだった。
キレッキレの動きが寸分たがわず揃い、美しい。そして表情も笑っていない。普通ならアウトだが、このステージの「意味」にはしっかりハマっている気がした。
そしてこちらも一曲踊りきると、男子陣が手や首を横に振りながら前に出てくる。女子陣と睨み合い、遂にダンスバトルに発展した。
僕らの盛り上がりは最高潮に。知ってる人もいるのだろう。踊る人に対して名前を読んでいる。その声に手を振るファンサービスも欠かさない。ソロパートをダンスバトルの形式で取り入れたのか。それぞれ別の動きで見ていて飽きないな。
一頻りダンスバトルが終わったところで曲のテンポが終わりに向かい始めた。藤林と女子生徒がお互い頷いたところで、一度照明が消える。そして、曲のサビ前のシンセサイザーが上がりきったところで、照明が点いた。
男女交互に綺麗に並んで、踊り始めたのだ。動きは激しくないが、先程よりも一体感を感じる。そして、最後に決めポーズをとって曲が終了した。
第一ホールが割れんばかりの大歓声。そのまま幕が閉じ、客席にも明かりが灯る。時間にして三十分も無かったと思うが、ホールに充満する満足感。ライブを一本見終わったかのようだ。
「すげぇ……」
誰かが呟く。それが口火を切ったようにみんな口々に感嘆の言葉を漏らした。舞台とは違ったが、人の心を動かすという事に関しては何も変わらないのかもな。すこし休憩が挟まれた後、また幕が開いた。そこには制服を着た藤林。マイクを手に持ち、宣言する。
「それではこれより、高文連演劇部総会を開催します。司会の藤林京也です。よろしくなっ!」
「……」(無言で足利先輩を凝視する僕ら)
「……」(顔を覆い隠す先輩)
しばらく足利先輩が弄り倒されたのは言うまでもないよな。
その後、僕らは第一視聴覚室に集められた。この前言ってた、現在の状況の確認が行われる。実際に集まったのは、距離や日程の関係上十校ほどしか居ない。もっといるはずらしいぞ。
「どうも、桜花学園です。今年はそうですね、それなりに人数入りました。機械に強い子がいるんで、演出面の強化ができそうです。よろしく」
桜花学園。足利先輩曰く「設備が整っていて、財力を見せつけてくる連中」らしい。確かに凄いけど、ちょっと僕らが僻んでるとしか思えない。
「紅葉高校部長、
如月と言う少年は、優しそうな雰囲気だった。慧先輩と似ている気がするが、あっちは軽薄そうで、こっちは紳士に見える。温室育ちなのかもな。ギラつきが足りない。これも足利先輩が言っていた。
春の全国大会とは、地方のブロック大会で二位になった学校が集まって開かれるらしい。二位だが、厳しいブロック大会で準優勝している分、勉強にもなるのだとは先輩の言。
ちなみに、紅葉高校は「頭の良さをこれ見よがしに使ういけすかねぇ連中」らしい。先輩の心の貧相さに涙が止まらない。可哀想だ。
「花園大学附属です。先程のステージ、女子の力強さがお見事でした。私達もあのような舞台づくりに取り組みたいです」
花園大学附属高校。名前が長く、女子校で、更にお嬢様学校だ。部員も全員女子らしく、校風から品のある舞台が得意らしい。これは美雪先輩の言だ。
逆張り先輩は「品の良さか知らねぇが、審査員を試すような抽象的な劇ばっかりやる連中」らしい。こればかりは僕も実際のものを見たことがないからわからない。でも多分、これも誇張しすぎだと思う。
「青葉北高校部長の
青葉北高校。僕らと偏差値はどっこいどっこいのところだ。基本的にこの二つが志望なら家の近さで選ぶのがいいらしい。高校的にそれはどうなの? と思うけど家の近さも重要な「ファクター」だよな。
逆張り野郎は「伝統ばっかり重んじてるクセに実績がない可哀想な連中」と言っていた。これに関してはただの侮辱なので後で謝罪させます。
……そして、僕らの番がやってきた。
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