最終話 しみゼロの日


 キャラ付けと一言で言っても。

 それには二つの種類があって。


 本人の印象操作による内部発信の物と。

 本人は自覚のない外部発信による物。


 誰しもまず、後者を体験して。

 前者を意識するというのが一般的なメカニズムなんじゃないだろうか。


 指摘されたカラー。

 それが嫌なら塗り替えようと努力するし。


 それが気に入ったなら。

 上からさらに塗りたくる。


 でも、メインの色ばかりじゃなく。

 話した人。

 目にしたドラマ。


 いろんな色と触れ合う度。


 多かれ少なかれ。

 その色が体にこびりつくのは必定。


 だから、頼むから。


 ちょっとはまともな色を。

 そいつらに塗ってくれ。



 ……新入生諸君。



 新しい色、知らない色。


 どんどんいろんな色と出会って。

 自分を望み通りの作品にして欲しいと俺は願うが。



 その色は、塗っていい色かどうか。

 相手を見て。


 ちゃんと判断するように。




 ~ 四月三十日(金)

    しみゼロの日 ~

 ※一丘之貉いっきゅうのかく

  同じ穴のムジナ。

  主に、悪い集まりの時に用いる。




「意外と外に出ること多いよね」

「うん」

「じゃあ、UVケア用品と……」

「にゅ」

「あと、ぼく、部室にクッション欲しい」

「いいね」

「にゅ」


 同好会は。

 定例部長会議への出席や。

 活動報告書提出義務がない分。


 予算が出ない。


「おいお前ら。同好会は、金ないぞ?」

「知ってます。同好会の備品買うんですから、割り勘に決まってるでしょう」

「真顔で恐ろしいこと言うなよ」


 そうでなくても昨日の送別会で。

 奮発しちまったからな。


 いらん出費強要すんな。


「必要なものだけにしろよ?」

「わかってるよー。あ! これ!! ぼく、これ欲しい!!」

「そうだな。それは必要だよな」


 学校から、駅の反対側に出た繁華街。

 ホームセンターとスーパーが合体したようなショッピングセンターで。


 今後の活動に必要なものを。

 そう。

 必要なものだけを買う、我ら部活探検同好会。


 その新メンバーは。

 絶対にそれだけは必要な品。

 フラフープを片手にはしゃぐ、にょ。


「そういう下らないのはダメ。ちゃんと必要な物選ぼう」


 そう言いながら、必要な品。

 足つぼマットをカートへ放り込む、にゃ。


 そして。

 カートに乗りながら。


 絶対に必要な巨大ぬいぐるみと戯れる、にゅ。


「…………ここで昭和のお父さんなら、カートひっくり返して叱るところなんだろうな」

「せんぱいせんぱい! 二人が余計なもんばっか買おうとするの注意してくださいよ!」

「うるさい黙れ。そういう言葉は、ビンに入ったマリモをカートに入れてる女子高生が口にしちゃいけません」


 これはもう、小学生の引率だ。

 でも、どうにかしてとめなきゃならねえ。


 叱っても効果無いだろうし。

 優しく言ってもやめねえだろうし。


 そうだな、ここは。

 いつもの話をうまく使って、自尊心を煽ってみるかな?


「やっぱりお前ら、そっくりだな」

「そんなこと無いよ!!」

「また言った。全然似てないって」

「にゅ」


 よしよし。

 狙い通り、食いついてきた。


 こいつらの言う通り。

 それぞれ違うカラーを持っていたなら。


 一人がはしゃいで。

 一人がそれを咎めて。

 最後の一人が、ケンカになりそうな二人をフラットな目で見てなだめるはず。


 性格の違いを意識させて。

 自分のパートを決めてくれれば。


 結果として、無謀な買い物はとまるはずだ。


「いいか? 性格が違うって言うなら……」

「だからぼく、遊び道具しか入れてないじゃん!」

「私は、自分じゃ絶対に買わない系の健康グッズしか入れてない」

「にゅ」

「まてまて話をさせろ。あと、いくつぬいぐるみ入れるんだお前は。プロゲーマーか」


 カートで移動しながら取り放題のクレーンゲーム。

 いや、それはともかく。


「なんも違わねえよ! お前ら揃って一緒! 余計なもん買うな!」

「一緒じゃないって言ってるのに……」

「頑固おやじ……」

「にゅ……」

「そんなの部室じゃ飼えませんから、元の場所に戻してきなさい」

「ぶーぶー」

「ぶーぶー」

「にゅーにゅー」

「お母さんは面倒見ませんよ? 自分で面倒見れないなら言うこと聞きなさい!」


 俺の命令に。

 途端に膨れた拗音トリオ。


 にゃ、にゅ、にょの右手が。

 一斉に俺の隣を指差す。


 その指先からのてんてんてん。

 クロスファイヤーポイントにはグレーのレジかご。


「…………同好会に必要?」

「も、もちろん……」


 そうだよな。

 必要だよな。


 俺の隣で、難儀そうに買い物かごを握り直して。

 中に詰まった大量のねじをガシャガシャ言わすこいつは。


 舞浜まいはま秋乃あきの


「秋乃ぉお。それをどうつかうぅう?」

「パ、パラジウムリアクターを作る材料……」

「無許可で作っちゃいけねえだろうしホムセンのねじで作っちゃダメだしぜったい部活探検に必要ねえしサイズバラバラじゃねえかねじ穴彫るにも大作業だしがちゃがちゃうるせえ!!!」


 それ、何十種類とあるねじの棚から一本ずつ持って来たろ。


 確かに一個ずつ全部欲しいよな。

 気持ちが分かっちまうとこが悲しいぜ。


「間違えずに全部戻して来いよ!」

「む、無理難題……」

「お前を見習ってこいつらまで遊ぶことになってんだろうが! ちょっとは先輩らしくしろ!」


 新学期明けてから。

 連日、バカなことばっかりやって来た秋乃。


 その目が。

 俺の一喝に、大きく見開かれる。


「そ、それ……、採用!」

「なにが」

「あたし、先輩キャラになる……!」


 目からうろことつぶやきながら。

 秋乃が、ねじを一本一本、棚に戻し始めると。


 それを見た後輩どもが。

 しぶしぶと下らんグッズを返却しに行く。


 ……そう。

 誰かから、似てると言われれば反発したくなるけど。


 人は誰も。

 そばにいる人と似ていたい。


 そう思うのが当たり前。


 悪さをする先輩の真似はしたくなるし。

 そんな先輩が、真面目にしなくちゃと反省した姿を見たら。


 やっぱり真似をしたくなるのが人情だ。


「先輩キャラねえ」


 何を言ってるのやら。

 良かれ悪かれ。


「そんなもん、新学期初日から勝手になってるじゃねえか」


 キャラ付けの第一歩は。

 客観視点。


 三人娘から、先輩だと認識されていることにこいつが気付くまで。


 どれくらいかかるんだろうな。


 そして、拗音トリオもまた同じ。


 先輩から愛されているって気付いて。

 自分は後輩なんだって気付いたら。


 その時初めて。

 先輩を立てて。

 真面目にしよう。

 そう考えるに至るんだろう。



 ……先輩キャラ、か。



 今日は。


 この同好会に。

 また一つ。


 目的が生まれた日になった。



「せんぱい! 必要なもの以外、返してきました!」

「おお、偉いぞ。よく気が付いてくれた……?」

「悪ふざけが過ぎた……。これが一番大事だ」

「にゅ」

「うはははははははははははは!!! まだ、先輩として舐められてる!」


 三人が押すカートの中。

 にゅの代わりに、そこに詰め込まれた物品は。



 秋乃。



「見張ってないとまた変なことやりだすし……」

「そこでじっとしてるように」

「にゅ」



 『先輩』になりたい。

 そんなことを願った秋乃が。


 今にも泣き出しそうな顔で。

 俺を見上げる。



 まあ、焦るなよ。

 これからゆっくり知ることになるだろう。


 偏屈な俺でさえ。

 誰かに親切にしたいって思えるようになったんだ。


 いつか分かってくれるさ。

 全世界に優しいお前が。

 自分たちの事を心底愛しているってことに。


 だから、頭抱えてんじゃねえ。

 さっきから、髪をゴリゴリいじって……?


「何やってんだ、頭頂部の髪掻き分けて」

「バ、バーコード作らなきゃ……」

「うはははははははははははは!!!」



 ……そんな秋乃が。

 レジで奇跡的に読み込まれた金額は。


 カートの中で、こいつが手にしてたカゴの中。


 五つのマグカップと。

 同じ金額だった。





 秋乃は立哉を笑わせたい 第12笑


 =気になるあの子と、

  先輩ヅラしてみよう!=


 おしまい♪



 次回は、ちょっとお休みをいただいてからの執筆となります!

 楽しい品をお届けできることと思いますので、どうぞお楽しみに!!!

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秋乃は立哉を笑わせたい 第12笑 如月 仁成 @hitomi_aki

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