魔法使いは花を降らせる

藤川みはな

花降らせ屋

わたしは野崎花蓮かれん

高校2年生だ。


わたしの彼氏は魔法使い。

突然、びっくりするよね。

だけど、本当なの。


隣を歩く、高身長のイケメンは

佐々木理央。

彼こそわたしの彼氏で魔法使い。


「ねぇ、魔法使って見せてよ」


わたしは理央に笑いかけた。

理央はいつもにっこり笑って頷いてくれる。


「うん、いいよ!」


理央は瞳を閉じて集中している。

理央が目を開けたとき、

空から花が降ってきた。


春だから桜を選んだんだね。

わたしは「綺麗」と声を漏らす。


「俺の魔法は花を降らせることしかできない役立たずな魔法だよ。でも、花蓮が嬉しそうに笑ってくれて

役立たずじゃないって気づいたんだ。」

理央は落ちていく桜の花びらを見つめる。

「花が空から降ってくるなんてとても素敵なことじゃない。悲しくても笑顔になれるわ」

本心からの言葉を

口にすると理央はにっこり微笑んだ。

「ありがとう」


ある日のこと、

「俺、花降らせ屋をやろうと思うんだよね!」

突然、理央にそんなことを言われた。

「花降らせ屋?」

「うん、俺、花を降らせられるから

みんなを笑顔にできると思ってさ!もちろん

料金は0円!」

いい!

「そのアイデアすごくいいよ!やろう!」

早速、花降らせ屋のポスターを作ることにした。

パソコンで文字を打ち、花と男子のイラストを入れこんで印刷する。

そして学校の壁や、街中のお店、電柱に貼らせてもらった。

「依頼がくるといいね」

「そうだね」

理央の笑顔はとてもキラキラしていた。


翌日

「うわーんっ花蓮ーっ!」

親友の美香が泣きながら駆け寄ってきた。

「どうしたのよ、美香」

「彼氏に浮気されてフラれたの……」

鼻水を垂らしているからティッシュで拭ってあげる。

「あら、そんなことがあったの?辛かったわね」

浮気、か。

理央はしないだろうなぁ。

一途だし。

「だから、花降らせ屋に花を降らせて欲しいのよ!!」

「えぇ、もちろ」

「彼氏の頭にサボテンを!!」

「えっ、サボテン?」

サボテンって花だっけ。

それより、彼氏に復讐しようとしてるわよね……。

「美香、やめた方がいいわよ」

その時、教室中に様々な色のガーベラが降り注いだ。

「うわぁすごいっ!」

「理央がやったのか?」

「うん、そうだよ」

騒ぐ男子に理央が照れ臭そうに笑う。

そして理央はクラスメイトの横山大地くんに

何やら耳打ちした。


「く、黒木さん」


男子の声にわたしたちは振り向く。

横山くんだった。

「なーに?」

美香が首を傾げた。


「これ、あげる。だから元気出して」


横山くんは顔を赤らめながら

ガーベラを美香に差し出した。

「えっ……ありがとう」

美香は驚いているけどちょっぴり頬が赤い。


あらあら

なんだかいい感じ。


わたしは理央に向かって笑いかける。

理央はピースして明るい笑顔を見せた。


数ヶ月後

花降らせ屋にちょこちょこ依頼が舞い込む

ようになった。


結婚式から、誕生日、夫を亡くした奥さん。


どの場面でも、花が降ると

みんな笑う。


人を笑顔にさせられることができる

理央はすごい人なんだと改めて思った。


だけど、

そんなある日、悲劇は起きた。




理央が交通事故で死んだのだ。





ベッドに横たわり、白い布を顔にかけられている

男性。



嘘だ。嘘だ。嘘だ。


わたしはおそるおそる布をめくる。


紛れもなく理央だった。

「理央」

そんな、嘘でしょ。

寝てるだけでしょ?

ねぇ、理央。

早く、依頼主の元へいこうよ。

理央の手を握る。


とても冷たい。


思わず後ずさりした。

違う!

理央は死んでない。

こんなの嘘よ!!


理央のお母さんとお父さんが心配そうに

わたしを見つめている。


わたしは病室を飛び出した。


なんで、なんで、なんで。

なんで理央が!!


連れていくならわたしを連れて行ってよ!


もっと一緒に居たかった。

もっと思い出を作りたかった。


それなのに、なんで死んじゃうのよ。

地面に座り込む。


涙が一筋流れた。


「花蓮、泣かないで」

聞き覚えのある声。

空を見上げると、桜が降ってきた。

あぁわたしの好きな花だ。


理央だ。


理央が花を降らせている。


死んだのに人を笑顔にさせようとしてるなんて

本当にお人好し。


わたしは泣きながら笑う。


理央の遺志を継ごう。

今度はわたしが魔法使いになる。


だから、見守っててね?理央。



理央が死んでから一年後



わたしは、花降らせ屋を続けていた。

「うわぁぁぁんっ」

男の子が膝を擦りむいて泣いていた。

わたしは男の子に駆け寄った。

「痛かったね、いたいのいたいのとんでいけー!」

「痛いよぉぉっ」

「それじゃあ、お姉ちゃんが魔法を

見せてあげるね!」

わたしは籠の中にいっぱいに摘んだ花を

男の子の頭の上に降らせた。

「うわぁっ」

男の子は痛みも忘れて花に見惚れている。

「痛みも忘れちゃうくらい綺麗だよね」

男の子に笑いかけると男の子は頷いた。

「おねーさん、魔法使いみたいだね!」

「ありがとう。……魔法使いか。お姉ちゃんがすごく好きだった人が魔法使いだったのよ。」

にっこり笑うと男の子は目をキラキラさせた。

「すごい!おれも魔法使いになれるかな?」

「きっとなれるよ」

人を笑顔にさせる魔法。

花を降らせたら

君のことを思い出す。

思いが降り積もる。


理央、君の魔法は今も生きているよ。

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