〈短編〉ヒーローになんてなれやしないよ

赤黄 緑

ヒーローになんてなれやしないよ

ヒーローになりたい。


 小さい頃はウルトラマンや仮面ライダー、戦隊モノ等々ヒーロー作品と名のつくものは片っ端から見て、将来の夢もヒーローだった。

 

 しかし、人は時として、現実を見なければならない。今俺が右手に持っている、今日が締切の進路希望調査書にヒーローの文字はない。

 

 小さい頃は何にだってなれると思っていたし、誰もそれを否定しなかった。

 

 ヒーローになりたいと言えば、幼稚園の先生はカッコイイと言ってくれたし、母さんには守ってねと言われ、父さんはお前ならなれると言ってくれた。

 

 しかし、高校生ともなれば話は別。ヒーローなんてものは所詮フィクションでしかない。画面の向こうの幻想。仮に仮面ライダーに出演しようが、それはヒーローではなくただの役者だ。根本的にヒーローになんてなれやしない。

 

 でもそんなのは当たり前なわけで、この歳になればその現実に落胆する者も、異議を唱える者も、挑戦する者もいない。あれだけヒーローになりたいと思っていた俺ですらそうなのだから。





 

「えー美希、女優になりたいのー?絶対無理でしょー。ねー?千夏?」

 

「うん。確かに美希、顔は可愛いけど、女優さんって大変だよー?なりたい人も沢山いると思うし。沙也加の言う通り難しいと思うよ? 」

 

 どこからかそんな声が聞こえてきた。声の主をキョロキョロと探し、その声に目を向ければ教室の真ん中で女子4人が話している。

 

「あれ?そういえば遥、昔、子役だかモデルやってたって言ってなかったっけ? 」

 

「あーまぁね。でも全然売れないし、すぐに辞めちゃったんだよねー。やっぱ狭き門って言うの? 今の時代、子役とかやってた人かミス何とかに選ばれた人とかじゃないと女優はキビシーと思う」

 

「だ、だよねー……冗談冗談。ちょっと調子乗ったわー……」


「えーなに、冗談?もーびっくりさせないでよー」

 

 あぁ。俺の嫌いなタイプだ。嫌いなタイプというのは、ああいうギャル系の女子ということではない。まぁ、それもあるが、それよりももっと大切なことだ。

 

 


人の夢を潰す奴だ。

 

 人の夢というのは、生半可な気持ちで他人が介入していいものではない。そういう奴は往々にして、その愚行によって、人1人の人生を左右していることを分かってないないのだ。

 

 自分の夢を潰していいのは、いつだって、自分だけなのだ。

 

 彼女はあまり敵を作りたくないタイプ、空気を読んでしまうタイプなのだろう。そういう人間は悪くいうと芯がなく、周りの意見に流されてしまう。いや、周りに自分を潰されてしまう。という言い方が適切だろうか。

 

 そういうのを見ると無性に腹が立つんだよな。なんでか分からないけど。全く関係ないのに。

 








「なれないかどうかなんて分からないよ。俺の将来の夢はヒーローだし」

 






 俺はそれだけ言って教室を出た。彼女らの反応も見ずに。彼女らの返答も聞かずに。

 

 柄にもないことをしてしまった。今になって今日が木曜日、明日も普通に学校があり、あの教室に身を置かなければならないことに気づく。マジで気まずすぎる。どんな顔して教室入ればいいんだよ。

 

 ま、そうは言ったものの、ヒーローに関してはなれないかどうかなんて分かってるけど。

 

 

 

 







あんなものにはなれないさ。

 

 

 
















「おかえりー。ん?何、美希、今日なんかいい事あった?」

 

「え! ううん! なんでもないよ」

 

「なんでもないことないでしょー。ママにも教えてよ。告白された? 」

 

「ち、違うよ! 」

 

「ふーん。じゃあ何があったの? 」

 

「し、強いて言うなら、ヒーローに出会った……かな……」

 

「ヒ、ヒーロー?」

 

「うん。私のヒーロー。えへへ。」

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