6 疎外

 普段起きている時、ぼーっとしている時間が増えた。

 ひとたび色と音を帯びた夢は、繰り返すうちにどんどん鮮やかに、賑やかに転じていった。

 夢の中の出来事だから、実際に目や耳は使われていないはずなのに、起き上がると色の情報を拾いすぎた目がちかちか痛んだり、音を入れすぎた耳が奥まで軽くしびれが残ったりした。

 夢が脳に与えた刺激は、このように体にも影響するのか、と感心にも感激にも似た気持ちを抱いた。


 夢のリアリティさが増していくに反し、現実がどんどん影が薄くなっていくようだった。

 駅のホームに立っていると、鳴り響くベルの音が一瞬水の中から聞いたような、不確かでにごったような音になる時があった。近付くにつれどんどん大きくなる電車の輪郭も、どこか丸く曖昧に見え、こんな形をしていたっけ、と首を傾げた。

 街中を歩く時も、周りの喧騒が妙に離れて聞こえ、自分だけが蚊帳の外にでもいるようだった。 

 徹夜明けによくあるあの感覚だ。地に足がつかない浮遊感など結構似ている。

 ではどれもこれも、寝不足のせいだろう。とこの時は軽く結論付けた。


 後から思えば、これだけ不調のサインが出て不安に感じないはずはなかった。

 おそらくその不安のアラームもホームのベルの音と同じく、何かに隔てられ、だいぶ鈍くなってしまった思考回路には響けなかっただろう。

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