5 不和
四月ごろから、体調がいまいちのように感じる日々が続いた。
理由は簡単に言うと、寝不足だった。
眠りにつくと必ず夢を見るようになり、夢の情報が絶え間なく脳に詰め込まれていく。日記に書くことで更に記憶の定着が強化され、見た夢は細部まで脳裏に焼き付き、いつまで経っても忘れられない。
体感としては、脳が休む暇なく、二十四時間ひたすら働き続けているイメージで、これが予想以上に疲れるものだった。
夢の中でも動き回っているのが常だから、夢がリアルに感じるほど寝た気がしない。
たった三十分の昼寝の間に、一日にわたる長さの夢を見たこともあり、寝覚めは最悪としか言いようがなかった。
眠い。寝たい。休みたい。何をしていても、それらの単語がずっと頭の中でぐるぐると渦巻いていた。
ぐるぐる。ぐるぐる。
四月半ばのある晩、こんな夢を見た。
中世風の城の足元に立っていた。枯れかけのツタを這わせた城壁は高く、その上には二人の女性が立っていた。
豪奢なドレスに身を包まれた二人が何か激しく言い争っているのが見えたかと思うと、片方の一人の体がひらりと宙へ踊り出た。
えっ?
と戸惑う暇もなく、加速度を付けて落ちてきた体が目の前の地面に咲いた――
がばっと起き上がり、激しい動悸にめまいがした。
ただの夢だと自分に言い聞かせながらも、城壁から落ちた女性の体が地面に叩きつけられた時の音が鮮明に耳に残り、そこから飛び散ったおびただしい量の液体は、間違いなく赤色だった。
この日を境に、夢は、色彩と音を帯びるようになった。
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