2 発芽

 夢日記をつけ始めてから、意外な発見はちょこちょこあった。

 しょっちゅう夢を見ているつもりだったが、実際は週に一、二度しかなく、自分の感覚と実際の頻度にだいぶズレがあった。

 頻度が低い上に、ほとんど記憶に残らない。

 結構長めの夢を見た日でも、ベッドから身を起こし、「今日は何の夢を見たっけ」と思い返そうとする瞬間に、夢のつまったシャボン玉がパンとはじけ、何も残らないことが多かった。

 初日のように「夢を見たが覚えていない」といちいち書き留めてもしょうがないので、思い出せる夢だけ日記につけるようにしたら、週に一回くらいしかなかった。


 数は少ないが、思い出せる夢は、結構現実とリンクしていると実感した。

 例えば、真っ白でだだっ広いオフィスの真ん中に立っている夢をみた。

 壁も天井も窓枠も白色で、デスクの上に並べられていたパソコンは今の時代に見ない分厚く古い箱型で、音を立てずに振動していた。

 機械は動作しているのに、自分以外の人間は誰もおらず、空席ばかりのオフィスはただただ静かだった――

 それを思い出しながら日記に書き、夢の舞台となったオフィスは、アルバイトで働いていた所であることに気付いた。実際のバイト先は、もっと小汚く、騒々しい場所だったが、レイアウトがほぼ同じだから間違いない。

 このオフィスでバイトしていた頃は、いつも一番忙しい夕方の時間帯にシフトを入れられていて、満席の熱気と飛び交う人の声にいつも辟易していたが、無人の光景を夢で見られたことは、不思議な感動をもたらした。

 夢に出てたオフィスにそぐわない古臭いパソコンは、小学校に入って間もないころ、父が買ってくれた初めてのパソコンと同じデザインだった。


 こうして夢を構成する要素を一つ一つ拾い上げてみると、自分が今まで見たものや体験したことがもとになっていると気付いた。(人は自分の知らないものを作り出せないから、知ってて当たり前だと言われればそれまでだが)

 もっと脈絡のない夢――空飛ぶ気球からビルに飛び降りて犬を探す夢や、ランドセルを背負って工事現場で友人とかけっこする夢とか――でも、細部まで整理してみると、自分の知っている事柄や物によって組み立てられていることがよく分かる。

 この夢はどの思い出から抽出された要素でできたものなのか、パズルを解き明かすに似た楽しさに、私はハマっていった。

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