1 きっかけ

 その日の朝は、自分の笑い声で眠りから覚めた。

 笑いすぎてむせながら目が覚めたので、よっぽど面白い夢を見ていたに違いないのに、意識がはっきりしてから思い出そうとしても、何一つ思い出せなかった。

 悔しいような、惜しいような気持ちで朝食をほおばりながら、ふと思いついた。

 夢日記をつけてみたら、結構面白いんじゃないか。

 夢は人の記憶や深層心理から作られると言うし、自分の知らない自分の内側を覗き見て記録を取ってみることは、楽しそうなアイデアに思えた。


 思い立ったが吉日、本棚から未使用のノートを一冊抜き出し、表紙に「夢日記」と題名を書き、表紙をめくった。


2020年2月〇日(夜)

 すごく面白い夢を見た気がした。

 息継ぎできないほど笑いながら目が覚めたのに、内容がちっとも思い出せず惜しい気がした。でもおかげで寝起きはすがすがしくて気分が軽い。

 今度からはなるべく忘れないうちに夢の内容を書き留めていこうと思う。


 これが夢日記のスタートだった。


 夜に見た夢なら「(夜)」、昼寝の時に見た夢なら「(昼)」と付け加えるだけで、ほかは普通の日記をつけるのと変わらなかった。

 夢の中で見聞きした色や形、音、言葉……なるべく細部まで覚えて書き留めようと決め、実行した。

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