夢路

夏伐

ログハウスの夢

私は薄暗くまだまだ消されることのない蝋燭の群れを眺める。

隣にいる妻も恐ろ楽しみといった感じだ。


今日は待ちに待った怪談会。


お寺で小規模に催される小さなものだが、子供の頃は参加したくて駄々をこねたこともある。


大人になってからは家を出てしまっていた。


それが今年から転勤で実家で暮らすことになり、念願の怪談会に参加できることになった。


時間になり、住職が口火を切った。


それから次々と怪談が語られ、明かりが消えていく。


ついに私の番になった。


「それでは、私が高校時代に見た変な夢の話を一つ。


お恥ずかしい話ですが当時、私は廃屋巡りが趣味でして……。

心霊スポットと言われる場所にも友達とつるんで行っていたんですね。


その頃からおかしな夢を見ることが多くなりました。


ログハウスっていうですか、別荘の中を走り回る夢で不思議な事に夢を見る度にどんどん建物がボロボロになっていくんですよ。


そして夢が覚める時はいつも地下室に入った時。


変な夢だな、と思っていたんですが、いつしか走り回る夢ではなく地下室に閉じ込められる夢に代わっていたんです。


質感もやけにリアルで、酷い飢えの苦しみも現実なんじゃないかと思うくらいでした。




その頃、母がおかしなことを言うようになりました。


夜中に私が起きて『家に帰りたい』『お腹すいた』と言うらしいのです。


丁度反抗期でしたが、母は自分を『おばさん』と言いつつも素直な反応をしている私の夢遊病に根気強く付き合ってくれました。 


そしてその寝ぼけている私は本当に幼い女の子にしか見えない、と母が言うんです。


とはいえ、起きた私は何も覚えていない。




で、気まぐれにそのログハウスについて調べてみることにしたんです。


走り回る夢で、何となくの雰囲気やそれが自分の近所にあるらしい場所が舞台であることは知ってましたから。


インターネットで調べてみると、本当にそのログハウスがあるらしいと。


友達に夢の話も含めて話すと『これは行くしかない』とすぐに自転車で向かうことにしたんです。


夜は危ないし、補導されて就職に響いてはいけないというので夕方に行きました。全員小心者ですから。





ログハウスにつくと、案の定ボロボロで……小動物の白骨死体も転がっているんです。


でも私は夢の中で何度も歩き回っていますから、家主のように友人を案内しました。

友人もログハウスの間取りを知っている私に、ついに夢の話を信じてくれました。


今思えば良い友人たちです。


そして問題になったのは『地下室』です。


死体が出てきたらどうしよう、と話ながら無理やり地下室の扉を開けると中には小学生の女の子が倒れていました。


さすがに全員慌てまして、私は女の子に話しかけ続けました。何とか息はあったようでした。


友人たちはとにかく救急車を呼ばなくてはいけない、というので近くの民家に走っていきました。


それでも民家まで二、三キロはあるので、私は女の子を地下室から運びました。ぐったりしてはいましたが、地下室から出ると、外からの明かりで何とか意識を取り戻したらしく、掠れた声で何か言っていました。


聞き取れなかったのですが、とにかく水を渡しました。


女の子は衰弱していましたが、無事でした。


私も友人たちも警察に事情聴取され、こっぴどく叱られました。


今回は結果的に人が助かったけど面白半分で廃墟巡りしてはいけません、と。


全員、親に再度同じように怒られました。

当時小さく新聞にも載っていたのですが、見た人からはやっぱり怒られましたね。




それから数年して、社会人になってまた変な夢を見るようになりました。


またあのログハウスの夢です。

そして地下室に閉じ込められるのも同じです。


出られないかいくら試してもダメで腹がすくばかりでした。


過去の事があったので、仕事を休んでログハウスに向かったんですよ。

今ならスマホがありますから、よほどのことが無い限りすぐに連絡できますし。


それに、朝起きてからもずっと夢の事が頭から離れなかったんですよね。


今回は車で向かいました。


ログハウスの地下室を見ると、またも固く閉ざされていました。


高校時代に馬鹿な友人と力任せに開けたはずなんですが、持ち主が修理したんでしょうね。

私は今回も扉を壊す勢いで開けました。


中には高校生になった例の女の子が閉じ込められていました。


話を聞いてみると彼女も、知らないおばさんの家に行く夢を見たり、知らない人の家にいる夢を見たりしていたそうです」


――夢で繋がっていた話です。


私はそう言って目の前の蝋燭を見つめた。


「夢のおかげで妻に会えました。――でも彼女、ログハウスに行く記憶はいつもないらしいんですよね。

誘拐なのか幽霊なのか、今後もまたこういうことがあるのかもしれないですね」


ふっと蝋燭を吹き消した。


隣にいる彼女を見るが、姿がない。

席を立つ気配は一切なかったと思う。



今夜も、私は、またログハウスの夢を見るのだろうか。

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夢路 夏伐 @brs83875an

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